めぐり逢わせのお弁当。

インドは世界一の映画大国であるが、その制作数ばかりでなく、質に於いても世界基準だな、と思われる作品を生み出してきている。
インド映画、すべてがすべて、歌って踊ってのマサラムービーではないんだ。

『めぐり逢わせのお弁当』、監督はリテーシュ・パトラ。
定年退職目前の男主人公・サージャンには、『ライフ・オブ・パイ』のイルファーン・カーンが扮すろ。一児の母である30代の女主人公・イラには、ニムラト・カウル。静かなる美形。

大都市ムンバイでの話である。
ムンバイでは、1日に20万個のお弁当が、5000人のダッパーワラーと呼ばれる運び手によって家庭から職場へ運ばれている、という。
ところで、インドでは、今なおカーストが生きているんだ。大きく4つに分けられるカーストの下に、夥しい数のサブカーストが存在する。ダッパーワラーもそのようなサブカーストのひとつ、と思われる。
それはともかく、ダッパーワラーが配達するお弁当、誤配達ということはまずない、ということである。ハーバード大学の調査によれば、誤配達の確率は600万個にひとつ。
ところが、それが、600万個にひとつの誤配達が起こるんだ。
夫婦仲がどうもしっくりしない30代後半の主婦・イラが作ったお弁当が、その亭主の所じゃなく、定年間近かのサージャンの所へ配達される。その翌日も、そのまた翌日も。
弁当箱の中に入れ、短い手紙が交わされるようになる。心象心理の世界である。

銀座和光裏のシネスイッチ銀座、小さい劇場である。大規模な劇場のようなスタンディなどを立てるスペースはない。しかし、さすが銀座4丁目の和光裏、いつも、1階から地下へ下りる階段横の小さなガラス窓に、ささやかなディスプレイを施している。
この日は、このような。
ムンバイのダッパーワラーが運ぶ、金属製の4段重ねのお弁当箱が配されている。

定年目前のサージャン、今日もこのようなお弁当箱を受け取る。

インド人とは何度も一緒に飯を食った。
彼ら、おしなべて、もの凄い大食漢である。
この4段重ねのお弁当箱、それぞれの入れ物には、ご飯、カレー、主菜、そして右手の後ろの入れ物にはチャパティ。凄い量である。しかし、多くのインド人、このようなお弁当を食べている。

小さな台所で、サージャンからの手紙を読むイラ。
サージャン、幸せの国と言われるブータンへ二人で行こうなんてことも書いてくる。
サージャンとイラ、喫茶店で会おう、ということになる。ニューヨークかパリか、というヤバい展開となる。が、待ち合わせた喫茶店には行っていたサージャン、彼を待つイラへは声をかけなかった。
ウーン、そうか、それにしても、なんと言うか。
サブストーリーはあるが、それはそれ。サージャン、会社をやめ田舎へ帰る。
マサラムービーとは対極のインド映画、静謐な趣きを醸している。