満を持してのダスティン・ホフマン。

役者をやっていると、自ら撮りたくなってくるようだ。特に、アメリカの役者にその傾向が強い。クリント・イーストウッド、ウディ・アレン、ロバート・レッドフォード、若いところでは今年のアカデミー作品賞を取った『アルゴ』のベン・アフレック、皆さんいい作品を撮る。
名優、ダスティン・ホフマン、今年76歳になる。初めて自らの映画、監督作を撮った。

ダスティン・ホフマン、以前から自ら映画を撮る、監督をしたいとは思っていたそうだ。しかし、これという企画にめぐり合えなかったり、逃したり、ということであったそうだ。
しかし、ついにこれ、ロナルド・ハーウッドの戯曲とめぐり合う。『カルテット! 人生のオペラハウス』を撮る。
舞台はイギリスである。美しい田園風景の中に建つ引退した音楽家のための老人ホームでの物語である。
老人ホームと言ってもしょぼいものではない。引退した音楽家のためのものであるから、優美、優雅な佇まいである。かってのスターたちが余生を送っている。
そこへ、かってのスターどころか大スターであったジーンがやってくる。我が強く、かって周りの皆を傷つけ、嫌われていた女である。でも、大スターであった女。
引退した音楽家たちのための老人ホーム・「ビーチャムハウス」に激震が走る。就中、以前ジーンと夫婦であったレジーには。稀代のソプラノでありながら色事には奔放であったジーンとの結婚生活は、わずか9時間というんだから、何と言うかどう言うか、さすがスターとでも言うしかない。
このかってのオペラ界のプリマドンナ・ジーンに扮するのは、マギー・スミス。今年78歳のマギー・スミス、さすがの貫禄。
そう言えば今年初め、やはりイギリスの元気印のジイさんバアさんが出てくる映画・『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』について記した。そこにもマギー・スミス、同年のジュディ・デンチと共に出ていた。
かってのプリマドンナ・ジーンとの結婚期間、わずか9時間というレジーに扮するのは、トム・コートネイ。彼は今年76歳。
マギー・スミスにしろトム・コートネイにしろ、その他の役者にしろ、イギリスの誇る名優がわんさかと出てくる。それを撮るのは、アメリカ人のダスティン・ホフマン。

ダスティン・ホフマン監督作品、と大きくクレジットが入るのは当然であろう。
満を持してのダスティン・ホフマン、と言ってもいい。
まあ、何だかんだあることはあるが、そう大したこともない、と言えばそうも言えること。しかし、名優、ダスティン・ホフマンのディレクターとしての力量はどうか、と問われれば答えに窮する。難しい。
でも、面白かった。

例えばこういうこと。
ヴェルディ生誕200周年記念の映画なんだ。ああ、この曲知ってるよ、という調べがこれでもかと流れる。
先ずはこの曲。
ヴェルディ作曲≪椿姫≫から「乾杯の歌」が流れる。タッター、タッタッタタッタタッター、という気持ちのいい歌。
ついでは、やはりヴェルディの≪リゴレット≫から「女心の歌」。プッチーニの≪トスカ≫から「歌に生き、恋に生き」。サンサーンス≪動物の謝肉祭≫の「白鳥」。バッハ≪トッカータとフーガ≫。ハイドンや他の人も。
カルテット・四重唱で、アリアで。いずれも、そのサワリというものであるが、それはそれで楽しめた。「乾杯の歌」にしろ、「女心の歌」にしろ、その他のアリアにしろ。

暫らく、ここ2か月半ばかりの間に観た映画について記します。