アウトレイジ ビヨンド。

何で読んだのかは忘れた。フレンチ・フィルム・ノワールに、北野武は強い思い入れを抱いている、と。そうであろう。
しかし、似て非。北野武のフィルム・ノワール、ヤクザ映画は、乾いている。

「アウトレイジ ビヨンド」、監督・主演、もちろん北野武。
東西ヤクザの抗争がある。東の山王会と、西の花菱会。山王会の若頭は、経済ヤクザの若い男。当然、古参の幹部は面白くない。東の山王会と西の花菱会は、表面上は棲み分けている。しかし、花菱会の会長はしたたかだ。東の方をも狙っている。
東西ヤクザの抗争。組織内での世代対立。路線対立。ヤクザの世界も、一般社会とそう変わるものではない。
お務めを終え、間もなく府中から出所できる男がいる。元山王会系の組長・大友。北野武が演じる。大友と、今は表面上、その世界から足を洗った男との繋がり(やはりフィルム・ノワールでの友情か)がある。
大友、ヤクザの世界からは足を洗うつもりである。しかし、だ。出所間近の府中へ、マル暴の刑事が訪ねてくる。

まったくもって、全員悪人。
完結もする。
バンバンバンバン、ピストルがぶっ放される。東のヤクザも西のヤクザも、次から次へと殺される。殺しの道具は、拳銃ばかりじゃない。
経済ヤクザとして山王会の若頭にのし上がった若い男(この男、元は大友組の若頭なんだ)は、バッティングセンターの投球マシンで殺される。おそらく130〜40キロであろう、次々と飛んでくるボールを顔面に受け、こと切れた。
山王会の会長は、引退後、パチンコ屋で大友に刺殺された。この男、山王会の前会長を裏切り、自らの手で殺していたんだ。殺しが殺しを呼ぶヤクザの世界。北野武の映像世界である。

四方田犬彦は、現代の才人の一人であろう。その四方田犬彦に、『日本映画史100年』(集英社新書、2000年刊)という著がある。発行年が少し古いが、日本で最初に映画が撮影された1898年からの日本映画史を綴ったものである。
巻頭に、「葉山三千子の思い出に」という献辞がある。”葉山三千子”、Who? ”葉山三千子”なんて誰が知っているのか、と思う。
<谷崎潤一郎の『痴人の愛』のモデルにして、日本最初の女優のひとりである彼女を、・・・・・>、と四方田犬彦は、記している。ンー、そういう人がいたんだ。
それはそれとして、この四方田の書の最後の最後は、「北野武という事件」という節で終わっている。2000年、12年前の記述である。こうある。
<北野武の出現は、90年代の日本映画の躍動をもっとも端的に示す事件であった。レニー・ブルースに似た反ヒューマニズムの毒舌で話題を呼んでいたこの漫才師は、・・・・・、きわめて独自の文体をもったアクション映画監督としてデビュウした。>、と記す。
さらに続けて、<彼は暴力場面においていっさいの感傷を排し、日常性のさなかに突然に出現する惨事を描くことを得意とした>、と。
上の写真に、「A TAKESHI KITANO FILM」と入っている。
この作品、カンヌ映画祭へ送られた。授賞は逃したが、スタンディング・オーベイションで迎えられたそうだ。世界の北野武だからな。
今、思いつく「世界の日本人」、草間彌生と山中教授、そして、北野武かな。
危うく、忘れるところであった。警察のワルのこと。
あちらのヤクザ、こちらのヤクザ、あちこちのヤクザを焚きつけ、煽っていたマル暴の刑事、このワルは、最後に大友の手で殺される。