紙の月。

破滅願望って、時としてある。
破滅願望なんて抱かなかった、なんていうノウテンキな人もいないではないが、あったなー、2、30年前。この人と逃げよう、半年ばかりはパリに住み、その後はインドで何か月、それでよし、その後はどうとでもなれ、と。当然、怖くもあった。仕事はもとより女房子供を置いていくのだから。破滅へむかっていくのだから。が、状況が変わり、そこへは至らなかった。
私、何を書いているんだ。ヤバイ。
この雑ブログ、さまざまな人が読んでくれている。私が直接知らない人たちも多い。また、友だち連中はまだしも親戚の人たちも読んでいる。娘の婿さんの親御さんも読んでくれている。いかに昔のこととはいえ、ヤバイな。夕刻から焼酎のお湯割りを飲んでいたせいなのか。こうしてキーを打っていると、ダラダラダラダラいくらでも続く。ヤバイことが次々と出てきそうだ。
打ち切ろう。エイヤッ、と。

昨秋の近所のシネコンには、こういう布が下がっていた。

最も美しい横領犯って。宮沢りえ、確かに美しい。一万円札が飛んでいる。
今、最もパワフルな女流のひとり、角田光代が紡ぐ物語である。

宮沢りえ、7年ぶりの主演作。
昨日の安藤さくらは、天性の役者。美しい面立ちを持つ宮沢りえは、努力の役者と言えよう。

バブル崩壊後の1994年である。銀行の外回りの営業職である梅澤梨花、夫と二人暮らしの主婦。子供はいない。
ある時、お客の老人の孫である大学生と知り合う。何でそんなヤツと、と思うが、深みにはまる。逢瀬を重ねる。

何でそんな男と、と思う。が、そこはそれ、他人からはうかがい知れない。男女の間柄などそういうもの。
梅澤梨花、高級化粧品を買うようになる。お客の金に手を付ける。初めは、軽い気持ちで1万円。すぐに返す。しかし、若い男と高級ホテルのスイートルームや逢引のマンションを借りる内に、その額はどんどん膨らみ1億の単位となる。返済できるワケがない。
若い男も離れていく。破滅への道だ。だが、梅澤梨花、逃げるんだ。

梅澤梨花、タイへ逃げる。
角田光代、バンコクよりチェンマイの方が隠れやすい、として梅澤梨花をチェンマイへ逃がした。
梅澤梨花、踝までの長い巻きスカートでチェンマイの雑踏の中を歩く。
原作者の角田光代、こう語っている。
「逃げる彼女に、私は叫びそうになった。逃げろ逃げろ、逃げおおせろと」。
私も、こう叫んでいた。
「逃げろ逃げろ、手持ちの有り金を使い果たすまで逃げおおせろ」、と。