アイヒマンを追え!

元ナチ親衛隊中佐、アドルフ・アイヒマンが、1960年、モサドによって拘束されイスラエルに連れてこられた、とのニュースは世界を驚かせた。
アドルフ・アイヒマン、ナチス・ドイツにおいて600万人ものユダヤ人を強制収容所へ送り、ホロコーストの中心的な役割を担った男である。ドイツ敗戦後、追っ手を逃れアルゼンチンに潜んでいた。そのアイヒマンがついに捕獲された。
CIAやKGB、MI6をも凌ぐ世界最強の情報機関・モサドの手によって。
しかし、その歴史的なアイヒマン捕獲の裏には、ナチスの戦争犯罪を追いつめることに命を賭けた男、影のヒーローがいた。

ドイツという国、日本と異なり第二次世界大戦でのドイツの罪状を突きつめている。
本作『アイヒマンを追え』、暫らく前に記した『顔のないヒトラーたち』と通底する。
監督は、ラーズ・クラウム。1973年生まれの監督である。40代半ばか。
実話に基づいた物語である。

ドイツの映画祭では数々の賞を取っている。

1950年代後半のフランクフルト。敗戦の痛みからは回復、経済成長は著しく、ナチス・ドイツがどのような罪を犯していたのか忘れ去られていったそうだ。
その中で、ヘッセン州検事長のこの男、フリッツ・バウアー(バウアーに扮しているのは、名優・ブルクハルト・クラウスナー)は、ナチスの犯罪を追い続けている。
そのバウアーに、アドルフ・アイヒマンが南米アルゼンチンに潜んでいる、との情報が入る。
バウアー、アイヒマンを捕獲し、ドイツ国内で裁判に掛けることを思う。
いかし、元ナチスの残党がドイツ国内あちこちに生き残っている。連邦刑事局の中にも。バウアー、さまざまな壁、妨害に突き当たる。
で、バウアーはどうしたか。
イスラエルのモサドに情報を持ちこむんだ。

バウアーの周りの相関図、このようである。
バウアーの部下のカールという若い検察官は、事実ではなくフィクションでつけ加えられたもの。バウアーと二人で元ナチの残党たちの妨害に立ち向かう。
極秘に。

実は、フリッツ・バウアーもユダヤ人である。
しかし・・・
「これは復讐ではない、正義と尊厳を賭けた闘いだ」、と惹句にある。
確かに。

本作、ナチの犯罪に対する正義と信念を貫いたフリッツ・バウアーの事実に基づいた物語であるが、あとひとつ、同性愛の問題がサイドストーリーとして流れる。
日本はもちろんのこと、1950年代後半、ドイツにおいても同性愛は日陰の存在であった。
ナチの犯罪を追うフリッツ・バウアー、実はゲイなんだ。さらに、部下の検察官・カールもゲイだと後ほど出てくる。レアケースではあるが、ないことはない。
1973年生まれの監督・ラーズ・クラウム、ナチスの犯罪に対する闘いと共に、社会の同性愛に対する目に対しても闘うってことなのであろうか。


暫らく映画に戻ります。