さざなみ 45Years。

イギリスのある田舎町でのお話しである。週末の土曜日に、結婚45周年のパーティーをしようとしている老夫婦がいる。夫のジェフは79歳、妻のケイトは70歳。子供はいないが、引退後の生活をごく普通に送っている。
しかし、週初めの月曜日にスイスから一通の手紙がジェフの許に届く。50年前、アルプスの氷河でクレバスに落ちた若い女性の遺体が発見された、というんだ。地球温暖化の影響で、そういうことが起こっているそうだ。が、問題は、氷河の中から現れた若い女性。どうやら50年前にジェフと共にアルプスに登っていた若き日のジェフの恋人・カチャのようなのだ。

『さざなみ』、監督はまだ42歳と若いイギリス人・アンドリュー・ヘイ。
主演の二人は、イギリスが誇るシャーロット・ランプリングとトム・コートネイ。シャーロット・ランプリングは1946年生まれ、トム・コートネイは1937年生まれ。実年齢と役柄の年齢、ほぼ同じである。
名優二人の演技、ベルリン国際映画祭はじめ多くの賞を受けている。が、それよりも問題は、<妻の心はめざめ、夫は眠りつづける>、というポスターのフレーズ。どういうことなんだ。
確かに夫のジェフは、50年前の恋人・カチャとの思い出に浸っていく。そんなこと、当たり前のことだよ。しかし、妻のケイトは、自らが知らない若い女への嫉妬心をつのらしていくんだ。
50年前のことだよ。結婚する前のことだよ。ジェフが若いころの想いにふけるのはよく分かるよ。しかし、50年前のことに嫉妬する女なんて、それこそよく分からないよ。

分かんないよ、シャーロット・ランプリング、いやケイト。

70歳のケイトの心に火を点けたのは、夫のジェフとのこういうやりとりにあるようだ。
ケイトの「もし、その人が死んでいなかったら、彼女と結婚していた?」との言葉に、ジェフこう答える。「そのつもりだった」、と。
当然だよ、何らおかしくない。ところがこの言葉がケイトには耐えられないんだな。
この作品とほぼ同年代、カミさんや結婚年数、すべてに数年若いにすぎない私、至極当たり前のことだと思えるのに、『さざなみ』のケイトはかかわずらう。

女性の嫉妬心って、すごいね。
ジェフとケイトの場合、子供がいないってことがあったのかもしれない。子から孫へということでなく、自分たちで自己完結ということを考えることもあろう。
いずれにしろジジババ、そうシャカリキになることはない。お互いに若いころの何人もの恋人たちのことを思い出す、ってこともいいものだ。
そうだよ。ほんと。