やっと勝った。

ここ10年ばかり、碁を打っていない。が、日曜昼のNHKの囲碁番組は見ることが多い。
今日昼のNHKEテレ、NHK杯囲碁トーナメント準決勝、寺山怜四段が河野臨九段を破り、決勝に歩を進めた。新鋭が実力者を破った。中押しで。
四段が九段を破ること、ないことはない。プロの世界ではあり得ることである。寺山四段、あと1勝すれば優勝である。
NHK杯囲碁トーナメントの優勝賞金は500万円。若手棋士にとっては少ない金額ではあるまい。
ところで、4日前の9日から、ソウルで賞金100万ドルを賭けた囲碁5番勝負が打たれている。
対戦するのは、現在世界最強棋士のひとりと言われるイ・セドル九段と、AI(人工知能)の囲碁ソフト「アルファ碁」。
AIの「アルファ碁」、昨年秋にはヨーロッパチャンプに勝っている。しかし、ヨーロッパチャンプとイ・セドルでは格が違う。
対戦前のイ・セドル九段、こう豪語していた。5戦全勝、負けるワケがない、と。その後、ひとつぐらいは落とすかもしれない、とややトーンダウンした。が、内心は100万ドル荒稼ぎ間違いなし、との思いであったであろう。
本人ばかりじゃなく、囲碁を知る者、誰しもがそう思っていた。
ところがである。
第1戦、なんとAIの「アルファ碁」が勝った。第2戦、第3戦もAIが勝った。
イ・セドル、今、史上初の七冠に王手をかけている日本の第一人者・井山裕太をも一蹴している。井山裕太、こう語る。「イ・セドルは、ひょっとすると史上最強の棋士かもしれない」、と。
そのイ・セドルが3戦続けて打ち負かされた。AI、恐るべし。
そして今日のソウル、第4戦。NHKのニュース映像から。

イ・セドル、やっと勝った。

ようやく1勝。
これで1勝3敗。

10日、第2戦に敗れた後のイ・セドル。
「完敗だ」、と。

AI、1997年にチェスの世界チャンプに勝った。その後、将棋のトップ棋士にも勝つ。
チェスの打ち手は10の120乗だそうだ。将棋の打ち手は10の220乗。それに対し、囲碁の打ち手は10の360乗という。
無数ともいえる手数がある。気の遠くなるような変化がある。
それがどうして。
例えばこの図。人間はすぐに”ネコ”だと分かる。今までのAIは、この図をネコと判断するのに、耳が三角、ヒゲがどうこう、何が何、というように多くの情報を読みこんで判断していたのだ、という。

それが、「ディープラーニング」という思考法に変わる。
囲碁で言えば、過去の膨大な棋譜を覚えこませ、AI自ら何千万回も対戦させる。
私の理解があっているなら、そこからが”ミソ”なんだ。
「直感」なんだ。
「直感」で判断できるようになるんだ。膨大な積み重ねの合理性よりも、いや、その上に立った「直感」がAIの判断基準となる。
まことに不思議なことだが、そのようなこと、まるで”人間”だよ。
そのようなAIに、世界最強棋士のひとりイ・セドル、今日やっと勝った。