パリ3区の遺産相続人。

日本ほどではないが、フランスも高齢化社会が進んでいる。
そのフランスに、Viager(ヴィアジェ)という不動産売買の制度があるそうだ。200年ほど前から。
不動産の売主は、売った後も死ぬまでその家に住み続けられる。なおかつ、毎月ある程度の金額を買主から受け取ることができる。そういうシステムだそうだ。
高齢の売主が用いることが多い、という。死ぬまで住めるので。買主のメリットは、相場より安い価格で買えるということ。ただし、売主が長生きしたら、かえって高くつく。今までの例では、90歳の老人からヴィアジェで不動産を購入したが、売主が122歳まで生き、買主の方が先に死んだ、という笑い話のようなこともあったそうだ。

パリ3区マレ地区、セーヌ右岸の趣きのある街である。
そこへ、ニューヨークからマティアスという男がやって来る。マティアス、60歳前、離婚歴3度、子供なし、仕事もない、あるのは借金だけ、という男。疎遠だった父親が、唯一マティアスに残したパリ3区マレ地区に遺したアパルトマンを売却するために。
父親が遺したパリ3区マレ地区のアパルトマン、何部屋もあり広い、庭もある。軽く見積もっても億の単位である。マティアス、これを売却して人生リセットしよう、と考えた。
しかし、そこにはマティルドという名の老女が住んでいた。90歳だという。マティルドの娘、クロエもいる。

「パリ3区の遺産相続人」、脚本、監督はイスラエル・ホロヴィッツ。
元々は、舞台劇であったそうだ。そうであろう。軽妙でありながら、濃密である。

マティアスに扮するのはケヴィン・クライン、マティルドに扮するのはマギー・スミス、クロエにはクリスティン・スコット・トーマス。名優ぞろい。

話はどう進むのか。
マティアスの死んだ父親とマティルダが、愛人関係であったことが分かる。しかし、共に配偶者がいる。ダブル不倫である。マティルダ、そのことを明かす。マティアスの母親は自殺している。マティルダ、そのことを初めて知る。
マティルダの娘・クロエは、自分の母親とニューヨークからの男、つまりマティアスの父親が不倫関係にあったことは10歳のころから知っている。不倫状態にある自らの今、ということもある。
ところで、90歳の老女・マティルダとニューヨークから来た男・マティアス、”マティ・・・”とよく似ている。
もちろん、当然、ワケはあるよ。
マティアスの親父がらみで考えると、よく解る。

90歳のマティルド、どこまで行くのか。
私も、どこまで。


暫らく映画がらみのことを続ける。