はじまりのうた。

「全米公開わずか5館であったのが、またたく間に1300館以上にまで拡大」、なんて惹句はウソに決まっているが、それほどにハッピーで心が平かになる物語である。涙の用意も必要だ。

イギリスからニューヨークへ来た二人の若者がいる。グレタとデイヴ。二人は共に曲を作り歌っている恋人同士である。グレタが作り、デイヴが歌っている曲・「Lost Stars」がヒットする。
が、旅公演へ出たデイヴの浮気を知ったグレタ、家を出る。グレタ、イギリスへ帰ろうか、と思いつつロワー・イーストサイドのライヴハウスで歌っている。
そのライヴハウス、アーレンズ・グローサリーに、今は落ち目の音楽プロデューサー・ダンが居合わせる。ダン、かっては著名な音楽賞も受賞した敏腕プロデューサーであったが、今は酒に溺れ、家庭も崩壊、という状況である。自らが創ったプロダクションもクビになるありさま。
ダン、グレタに「アルバムを作ろう。契約しよう」、と持ちかける。「本当にプロデューサー?」、と訝るグレタ。
売りこみには、まずはデモテープが必要だ。しかし、スタジオを借りる金はない。ダン、ニューヨークの街中あちこちでのゲリラ録音を決行する。

『はじまりのうた』、脚本・監督は、ジョン・カーニー。元バンドをやっていた男だそうだ。
グレタに扮するのは、キーラ・ナイトレイ。アル中、落ち目のプロデューサー・ダンには、マーク・ラファロ。デイヴには、マルーン5のボーカル、アダム・レヴィーン。”マルーン5の”なんて記したが、その名を私は知らない。アメリカではよく知られたバンドらしいが。

グレタに扮するキーラ・ナイトレイ、歌への思いは深い。
「Like a Fool」。趣き深いタイトルだ。

右は、何かにつけてグレタを助けるストリート・ミュージシャンのスティーヴ。こんなヤツいるのか、というくらい気のいい男である。
真ん中は、ダンの娘を間に挟んだダンとグレタ。つっぱっていたダンの娘、だんだんと良い子になっていく。
出てくる人たち、みんないい人たち。ちょっとお前、やりすぎじゃないか、とも思うが、これはこれでいいんだ。ハートウォームな物語。

右は、イーストリバーを渡ったブルックリンのウィリアムスバーグから、マンハッタンのビル街を眺めているダンとグレタ。
ダンとグレタ、歳はずいぶん離れている。しかし、お互いに相手の良さを認めている。ハッキリ言って、惹かれてもいる。ニューヨークのあちこちを歩き回り、どこかで何らかのことが起こってもおかしくはない。不思議ではない。
でも、そういうことは起こらないんだ。
そこがナンとも言えないんだ。
だから、涙が出てくるんだ。

『はじまりのうた』、昨日の『ニューヨークの巴里夫』以上にニューヨークの街中を駈け廻ったかもしれない。
1は、ダンとグレタが初めて会ったロワー・イーストサイドのライヴハウス、アーレンズ・グローサリー。
2は、多くのライヴハウスがあるロワー・イーストサイド。
3は、グレタと彼女を助ける気のいい男・スティーヴが再会したユニオン・スクエア。
4は、野外レコーディングの場所のひとつとしたワシントン・スクエア。
5は、デイヴがライヴを行うグラマシー・シアター。
6は、ダンとグレタがお互いのお気に入りの曲を聴きながら歩くタイムズ・スクエア。
7は、路上ライヴのひとつセントラル・パーク。
8は、夜のレコーディングシーンの背景となったエンパイア・ステート・ビル。
9は、ダンとグレタがしみじみと語るブルックリンのウィルアムスバーグ。
10は、ダン所縁のイーストヴィレッジ。イーストヴィレッジ、実は私も好きな街。華やかなニューヨークの中で、どこか侘びしげな俤を宿している。
『はじまりのうた』、音楽映画である。しかし、昨今の音楽シーンなどからっきし知らない私、ロードムービーとして楽しめた。また、味のある大人の恋愛映画としても。


今朝、サッカー女子ワールドカップ、なでしこジャパン、イングランドを破り決勝へ歩を進めた。
予選は勝ちあがるであろうが、今回は、ベスト8かベスト4か、そこらあたりで危ないんじゃないか、と思っていた。それが、決勝まで。正直言って、少し驚いている。
こうなったらアメリカとの決勝戦、勝っていようと負けていようと、後半残り20分になれば、澤穂希を投入してもらいたい。
澤が出れば、何らかのミラクルが起こるに違いない。


バラク・オバマ、キューバとの国交回復を発表した。
54年ぶりの国交回復。
病床にあるとはいえ、まだ健在のフィデル・カストロ、どのような思いを抱いているであろうか。