あん。

北野武とくれば、河瀬直美である。
共にヨーロッパでの知名度、異常に高いが、カンヌでは河瀬直美の存在感、北野武を凌駕する。一昨年には、カンヌ国際映画祭の審査員をも務めている。

河瀬直美、今年も最新作『あん』を引っさげカンヌへ乗りこんだ。『あん』、今年の第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門のオープニング作品として上映された。上映後はスタンディングオーベイションが暫らく鳴りやまなかった、という。
国内でもヒットしている、という。柏のキネマ旬報の直営館でも、全国公開と同日に封切られた。
キネ旬の直営館、便利づかいで時折り行っているが、入場までまだ間がある時間に行列ができていた。ウィークデーの日中だというのに。驚いた。
そう言えば、週一の土曜の朝日別刷り、今日までの3回、河瀬直美の越し方が取りあげられている。河瀬直美、危機感を覚えていたそうだ。
「カンヌなど海外の映画ファンの間では河瀬の作品は高く評価されているのに、日本の観客にはあまり観てもらえない」、ということに。「もっと見てもらう場を広げたかった」、と語る。
『あん』、河瀬直美の突きつめるアートと観客に受け入れられるエンターテインメント、それを上手く融合したものとなっている。

『あん』、原作はドリアン助川。脚本・監督は河瀬直美。
日本、フランス、ドイツの合作である。スタッフもキャストもその舞台もすべて日本なのに、日・仏・独合作、いかにも河瀬直美らしい。
『キネ旬 6月上旬』号で、この映画に出演している樹木希林と市原悦子の対談を読んだ。河瀬直美、押しが強いそうだ。その強烈な押しでヨーロッパの連中と渡りあい、彼らの資金も引き出しているのだろう。
ところで『あん』、”生きる”ということ、”人間の尊厳”ということを問うている。
過去があるどら焼き屋「どら春」の雇われ店長・千太郎(永瀬正敏)のところに、老女の徳江(樹木希林)が雇ってほしい、と現われる。桜が満開の頃である。
年寄りではあるが、彼女が作る”あんこ”はすこぶる美味い。店の前には行列ができるようになる。しかし、徳江は元ハンセン病の患者である、という噂が流れる。客は離れていく。
それでも雇われ店長の千太郎は、徳江を雇い続ける。しかし、徳江の方から身を引いていく。

樹木希林扮する元ハンセン病患者の徳江。手が少し変形している。
25年以上、30年近く前、インドのガンガー(ガンジス河)流域の聖地・バラナスィー(ベナレス)で日本人の医者に会った。北里大学の教授でインドへレプラ(ハンセン病)の治療と研究に来ている、という医者であった。
その人については、以前にこのブログに記したことがある故、再びは触れないが、その先生が言っていたことのみ記すと、「レプラ(ハンセン病)は、今では伝染することはありません」、ということであった。
しかし、世間の偏見は、消し去ることはなかなか難しいのが現実だ。

左は、どら焼き屋の雇われ店長の千太郎。永瀬正敏、なかなかの役者。
右は、どら焼き屋に時折り現われる女子中学生のワカナ。演じているのは、内田伽羅。
内田伽羅、そのジジババは、内田裕也と樹木希林。父母は、本木雅弘と内田也哉子。この4人のキャラを受け継いだような面差しじゃないか。
千太郎とワカナ、徳江を訪ねて国立療養所多摩全生園へ行く。

時が少し流れ、千太郎(左)とワカナ(中)が再び国立療養所多摩全生園を訪れた時には、徳江は既に死んでいる。徳江の友だちである佳子(右、市原悦子)からそのことを聴く。
元ハンセン病患者・徳江、短い期間ではあったが、どら焼き屋の店員として思う生を生きた。
よかった。


貴ノ浪(音羽山)が死んだ、という。
今月は、町村信孝、オーネット・コールマン、高橋治、西江雅之などが死んでいる。しかし、皆さんそこそこの歳である。仕方ないと言えば、仕方ない。
しかし、貴ノ浪は43歳である。
身体はデカイが、どこか気のいいところがあった。で、横綱になれず大関どまり。それにしても早すぎる。青森、三沢の出身。せめてあと10年か20年は生きさせてやりたかった。