駆込み女と駆出し男。

江戸時代の離婚は、現代の2倍もあったそうだ。知らなかった。駈込み寺があったことは知っている。しかし、江戸時代の駈込み寺、鎌倉の東慶寺と上州の満徳寺の二ヶ寺のみ。これで、どうして厖大な数の離婚が成り立っていたのか、不思議。
女からの離婚は認められず、男からの”三行半”がなくては離婚が成立しない時代なんだから。実際は、そのほとんどが、両者の示談で成立していたようだ。なるほど。
しかし、そうは言っても、男の方が示談に応じず、”三行半”を書かないケースもある。
「そこで、東慶寺さまがあり、この御用宿がある。・・・・・」、と東慶寺側の御用宿・柏屋の主人・三代目柏屋源兵衛(男名前であるが、女。演じるは、怖いものなしの樹木希林)は語る。

『駈込み女と駆出し男』、原案は井上ひさしの『東慶寺花だより』。脚色、監督は原田眞人。
さすが井上ひさしを下敷きとしたお話、面白いの何の。泣かせもするし。原田眞人、洒落た時代劇を紡ぎ出した。

「かわら版」も出された。
ヒットしている。公開1カ月で観客動員70万を超えた、という。一昨日、新宿ピカデリーでの大ヒット御礼舞台挨拶に登場した原田眞人、100万人を目指す、と語っている。いくであろう。このエンターテインメント時代劇、それほどに面白い。

東慶寺への山道を二人の女が走る。
大八車を引いているのは「じょご」。放蕩者かつDVの男から逃げてきた。熟練の鉄練り職人である。そして、大八車に乗っているのは「お吟」。何やら裏がありそうな江戸の豪商の妾である。
急げ、急げ、追手が迫る。片方の下駄を東慶寺の門の中へ投げこむ。駆込み成就となる。
よかった。観客は、胸をなでおろす。

大泉洋という役者、不思議な香りを持つ役者である。大泉洋独特の。
東慶寺側の御用宿・柏屋の居候である信次郎。実は、柏屋の女主人・三代目柏屋源兵衛の甥である。見習いの医者で、曲亭馬琴のような戯作者を目指している。
時代は、江戸時代後期というより晩期に近い頃である。
天保12年(1841年)、老中・水野忠邦による「天保の改革」が発表され、実行される。財政再建である。奢侈禁止令が出される。
そういう時代の話。まだ200年も経っていない頃であることに驚く。

ワケありの豪商の妾である満島ひかりが扮するお吟、色っぽいったらない。
『夏の終り』で瀬戸内寂聴以前の瀬戸内晴美を美人とした満島ひかり、お歯黒に眉を剃り、その美貌、妖しく光る。

言葉のことごとがある。
   道草を食うと付き馬油断せず   柄井川柳

狂言回し・信次郎とじょごの、歯がゆいながらも何とか、といった進展もある。
信次郎、曲亭馬琴はいざ知らず、戯作者を目指し江戸へ向かうこととなる。じょごと一緒に。

それにしても、女は強い。