シェフ 三ツ星フードトラック始めました。

「オレがオーナーだ。勝手にメニューを変えるな。オレの言うことが聞けなきゃ・・」、「クビにするか?」、「しょがねーだろ」、「クソッたれ、辞めてやる」。2人の男が怒鳴りあう。
「オレがオーナーだ」、と叫く男は、ロサンゼルスの一流レストランのオーナー。ダスティン・ホフマンが扮する。「クソッたれ、辞めてやる」、と怒鳴り返すのは、そのレストランの総料理長であるカール・キャスパー。扮するのはジョン・ファヴロー。2人の応酬、迫力ある。
雇用と被雇用の関係、オーナーと使用人、社長とサラリーマン、このようなことよくあるよな、ってなことはない。現実には。
ひとり身ならばいざ知らず、女房子供のいる男にそのようなことができるワケがない。ま、通常は。

しかし、腕のいい料理人、シェフの場合は様相が異なる。
時と場合によっては、できるんだ。
何故なら、シェフ、職人でもあるがクリエイターでもあるからだ。この『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』の主人公、カール・キャスパーほどの腕を持っていれば。
だが、そうはいってもその後の生活どうするか。気持ち良く啖呵を切ったものの今後のこと、考えなければならない。

『シェフ 三つ星フードトラック始めました』、主演はジョン・ファヴローである。が、主演ばかりじゃなく、
製作、脚本、監督もすべてジョン・ファヴローなんだ。
ジョン・ファヴロー、製作会社からどうこうと口出しをされない作品を創った。オレが納得できる映画を創りたかったようだ。素晴らしい作品となった。
アメリカでもほんの数館での上映から始まったそうだ。しかし、またたく間に全米数百館に広がっていった、という。当然だ。

映画に戻る。
気持ちのいい啖呵を切ってロスの一流レストランを辞めたカール・キャスパー、食っていかなくちゃならない。
元妻(バツイチなんだ、カール・キャスパー)の元カレから、オンボロトラックを譲り受ける。
そのオンボロトラックを金タワシとブラシを使ってきれいに磨きあげる。小さな息子(元妻との間に10歳ばかりの息子がいるんだ、カール・キャスパー)を使って。「パパはいい人間ではない。いい夫や父親でもない。しかし、料理は上手い」、と言って。
で、このフードトラック、”EL JEFE(ボス号)”を造る。

看板メニューは、ただひとつ。アツアツのキューバサンドイッチ。
キューバサンドイッチの移動販売である。
元一流レストランのシェフが作るCUBANOS(キューバサンドイッチ)、美味いのなんの、お客はバンバン押し寄せる。

新しいメニューも増えていく。
MEDIANOCHES(真夜中)ってどのような料理か、解からない。その下のARROZ CON POLLOは、チキンとライス、分かりやすい料理のようであるが、美味いんだと思う。なお、CUBANOS(キューバサンドイッチ)を含め、販売価格はすべて7ドル。
客が群れるのも当然である。安くて美味い。美味くて安い。

この春、公開は3月ごろであったろうか、この作品を観た人は幸福者だ。
たった一度の人生の問題、親子の間柄、手の届くすぐそこの場で教えてくれる。素晴らしい映画である。

マイアミからニューオーリンズ、オースチン、そしてロサンゼルスへと、アメリカを横断するロードムービーでもある。背後には、キューバンサウンド。”Oye Como Va”もあったような。
ロードムービー大好き人間には、堪えられない。