ルートヴィヒ。

1年少し前、同名の『ルートヴィヒ』が封切られた。監督はマリー・ソエル&ピーター・ザアー、主人公のルートヴィヒ2世に扮したのは、ザビン・タンブレアなる役者であった。
バイエルンの狂王と呼ばれたルートヴィヒ2世の生涯を、追ってはいた。しかし、映画としては物足りなさばかりのものであった。
何しろ美男美女が登場しない。当時ヨーロッパ一の美貌と言われたルートヴィヒ2世はじめ、ルートヴィヒが想いを寄せるオーストリアの皇后・エリーザベト、共に美男美女とは思えない。
豪華絢爛で危うい美、の欠片を見つけるのに苦労する作品であった。
だが、これは違う。

昨年末の早稲田松竹に、こういうポスターが貼ってあった。
今、私が知る最も安い映画館は、早稲田松竹である。今時珍しい2本立てで、シニア料金は900円。さすが2本を続けて観るのはキツイ。1本だけで出るのが、今は相応しい。でも、その1本、時としてガツンというものをかけるんだから。早稲田松竹は。
ルキノ・ヴィスコンティの『ルートヴィヒ』。1971年の作。

豪華絢爛、耽美の極み、。

このアルファベットの羅列、何とも言えない。
最も大きいのは、タイトルの”ルートヴィヒ”。
次いでは、監督のルキノ・ヴィスコンティ、その次は、ヘルムート・バーガー、ロミー・シュナイダー、トレヴァー・ハワードと続く。美しいんだな、この羅列。

ルキノ・ヴィスコンティだ。
貴族の出のルキノ・ヴィスコンティ、バイセクシャルであったそうだ。
ルートヴィヒ2世と重なる。

1845年生れのルートヴィヒ、1864年、18歳でバイエルン国王に即位する。
普墺戦争には出陣せず、自らの世界に閉じこもる。
時は流れる。
普仏戦争にも勝利したプロイセンのビスマルクが、統一ドイツ帝国を築く。バイエルンも組みこまれる。
しかし、ルートヴィヒの興味の対象は、「美」のみ。
ルートヴィヒに扮するのは、ヘルムート・バーガー。バイセクシャル、ルキノ・ヴィスコンティの思い人のひとり。

ルートヴィヒが唯一想いを寄せた女性は、オーストリアの皇后であるエリーザベトであった。従姉妹でもある。
しかし、エリーザベトは他人の妻。エリーザベト、妹をルートヴィヒの相手にと画策する。その婚約、一旦は整った。が、その後破棄される。

ロミー・シュナイダー扮するエリーザベト、得も言えぬ美しさ。

ルートヴィヒ2世、だんだんと狂っていく。
若い美男子への肩入れが幾つも。ホモセクシャルの世界である。
リヒャルト・ワグナーへも肩入れする。ワグナー命である。また、幾つもの城を造営する。国家財政は逼迫する。
”殿ご乱心”である。幽閉される。”偏執狂”として。
ロミー・シュナイダーの顔、仏さまの白毫のよう。

ルートヴィヒ2世は、1886年、幽閉先で不可解な死を遂げる。亨年40。

4時間に及ぶ復元完全版。
狂王・ルートヴィヒを描ききる。
絢爛豪華、耽美の極み。これぞ映画、という作品。