フルメタル・ジャケット。

クリント・イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』、大詰めでアメリカのスナイパー、クリス・カイル、敵の凄腕スナイパー、ムスタファと対峙する。スタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』の大詰めにも似た状況が出てくる。アメリカの海兵隊とベトナムの凄腕スナイパーの対決が。
キューブリックの『フルメタル・ジャケット』、ベトナム戦争の物語。北ベトナムと南ベトナム民族解放戦線(いわゆるベトコン)による1968年のテト(旧正月)攻勢後のフエでの闘い。アメリカの海兵隊の兵士が次々とライフルで射抜かれる。ベトコンのその凄腕スナイパーは、まだ年端もいかない少女スナイパー。マリーンズを次々引き寄せては、狙い撃ちにする。
が、『フルメタル・ジャケット』、単にスナイパーの物語ではない。この作品、二部構成である。後半のベトナムでの戦場の場面より、前半のマリーンズの新兵訓練の場面の方が怖ろしい。

右上に「キューブリック、命日にスクリーンで甦る」、と記されている。
スタンリー・キューブリック、1999年3月7日に70歳で死んだ。キューブリック作品、その命日から約1か月弱、東京や大阪ばかりじゃなくあちこちで上映された。

1987年の作品『フルメタル・ジャケット』も1週間であったが。

『フルメタル・ジャケット』、海兵隊へ志願した若者が、バリカンで頭を刈られるところから始まる。
マリーン新兵の訓練キャンプ、野卑で野蕃、人間性のかけらもない。生きた兵器を造るんだから。
4文字言葉の連発、連射。
「貴様らウジ虫め、オレの訓練に生き残れたら各人が兵器となるんだ、ウジ虫め」。「FUCKING、FUCKING、FUCKING」。「Sir Yes Sir」。「SHIT、SHIT、SHIT」。鬼のハートマン軍曹は叫ぶ。

お前なんかが、なんで海兵隊なんかに志願したんだ、という男がいる。ドジなやつでいつもニヤついているので、ほほえみデブと呼ばれている。鬼軍曹・ハートマンからは、しごきにしごかれる。が、ある時、ほほえみデブ、射撃の腕が立つことが分かる。顔つきも変わっていく。
しかし、なんと恐ろしいことが起こる。
新兵訓練満了の前夜、ほほえみデブ、鬼軍曹・ハートマンをM14ライフルで射殺、自らの身体をも撃ち抜く。「フルメタル・ジャケット」、と言って。
”フルメタル・ジャケット”、合金の真鍮で覆われた銃弾である。貫通力が強いそうだ。

新兵訓練を終わった兵士は、ベトナムへ送られる。ベトナム戦争真っ盛りの頃である。
「スターズ&ストライプス」の報道部員となった、いわば主人公のジョーカーも激戦地のフエへ。

ジョーカーのヘルメットには、「殺すために生れてきた」、と書かれている。が、その隣りには、白くピースマークも。
ジョーカー、フエでの市街戦に巻きこまれる。敵のスナイパーの銃弾に何人もの仲間が倒れる。
その敵のスナイパー、少女と言っていい若い女。一瞬、撃ち倒す。
が、その少女は虫の息ながら生きている。そして、声を絞り出しこう言う。「ショット ミー」、と。「私を撃ち殺せ」、と。暫しの間の後、ジョーカー、銃弾を放つ。クー・ド・グラース。
せめてもの慈悲、と思うのだが、スタンリー・キューブリック、どうもそうは単純なことでは済ましてくれない感じがする。
いけいけどんどんのアメリカの戦争賛美の物語ではない。だが、反戦の物語でもない。慈悲の物語でもない。
だが、曲者キューブリックが意図したものかどうかは知らず、何らかの安らぎは得る。