アクト・オブ・キリング。

前代未聞の手法、と言っていい。大虐殺を行なった殺人者に、その模様を再現させる。その映像そのものがドキュメンタリーであり、その様を撮ったドキュメンタリーでもある。
1965年であるから、間もなく50年となる。その年の9月30日、インドネシアで9.30事件が起こる。時のインドネシア大統領・スカルノ、軍部と共産党双方のバランスを取り、政権を維持していた。
陸軍の左派系軍人がクーデターを起こし、軍部トップの6人の将軍を殺す。しかし、すぐさま右派系将軍スハルトにより鎮圧される。
スカルノの政権基盤、ガタガタと崩れる。
ついに、インドネシアの国父である初代大統領・スカルノ、スハルトに追い落とされる。
同時並行で、インドネシア全土で共産主義者と見なされた人たちへの虐殺が行なわれる。1965年から翌1966年にかけて虐殺された人は、100万人ともそれ以上とも言われる。
不思議なことにこの大虐殺を行なった彼ら、今でもインドネシアでは英雄として生きている。

『アクト・オブ・キリング』、不思議な映画である。それ以上に不思議なことが今も許されている。インドネシアで。
この色もののシャツに白いジャケットの男は、アンワル・コンゴという名の男。プレマンと言われるヤクザ組織のリーダーであった。彼は、約1000人の共産主義者を殺した、と話し、今は、悠々自適の生活を送っている。

監督のジョシュア・オッペンハイマーは、アメリカ人。

1974年生まれでハーバード出の若いアメリカ人・オッペンハイマー、その現実を知る。そして、今も英雄となっているアンワル・コンゴたち、かっての殺人者たちにこう持ちかける。

こう持ちかけられたアンワル・コンゴをはじめとする多くの殺人を犯したかってのヤクザ連中、オッペンハイマーのこの誘いに乗ってくる。彼ら、映画好きなんだ。特にハリウッドのギャング映画やアクション映画が。

共産主義者の連中をこうして殺した、こうやって殺した、と演じるんだ。
ナイフで殺すと血が多くて臭くなる、針金で首を絞めるほうが出血が少ない、とかと。ナイフで首を掻き切る様など、先般you tubeで流されたイスラム国の黒づくめの男がアメリカ人やイギリス人の首を掻き切る映像とまったく同じ。彼ら、嬉々としてそれを演じる。
オッペンハイマーは、それを映しとる。

左の3枚は、アンワル・コンゴたちの再現写真であるが、右端は、好々爺となった孫と一緒のアンワル・コンゴ。
終幕、アンワル・コンゴが嗚咽し、嘔吐を堪えている場面が現われる。
どういうことなんだ。「オレは、罪人なのか」、とも語る。多くの人を殺した悪事を自覚したのか。そうかもしれない。が、そうでないかもしれない。あまりにも、いけシャーシャーと生きているんで。
この映画を観たインドネシア初代大統領・スカルノの第3夫人であったデヴィ・スカルノ、そうあのデヴィ夫人、こう語っている。
「1965年暮より、スハルト将軍下で、120万人の罪のないインドネシア人が赤狩りと称され殺されました。今、その真実が明かされようとしています」、と。
デヴィ・スカルノであるデヴィ夫人、夫スカルノを追い落としたスハルトが許せないんだ。そうであろう。
それにしてもジェノサイド、この100年に限っても度々起こっている。人類というもの、残酷な生き物なんだ、ということがよく解かる。