高野・熊野・伊勢巡り(8) 壇上伽藍(続き)。
ここいらあたり、壇上伽藍の中央部。
ここから、壇上伽藍の西の方へ移る。
右に根本大塔、左に金堂。
その間には、御影堂と准胝堂(じゅんていどう)が見えてくる。
大塔の鐘。
根本大塔の上から見た金堂。
この少し後、下から声をかけられた。
「写真を撮らせてもらっていいか?」と。「私の写真か?」と言うと、「そうだ」と言う。大きなカメラを持った外国人の若い女の子である。
断ることもない。「いいよ」と応える。
その女の子、バシャバシャバシャって何枚も連写していた。
その後、「ところで、貴女はどこから来たのか?」と訊いた。「ブラジルから来た」とのこと。「ずいぶん遠いところから来たな」と言うと、「地球の反対側からだからね」と応える。
後で少し考えた。あの女の子、朱色の根本大塔をバックにこんな醜男、しかもジジイの写真を撮っていたが、それが地球の裏側の国、日本的と思ったのかな、と。
「いい旅をな」、と声をかけ別れた。
と、また別の外国人の女が現われた。今度はずいぶんお年のバアさん。
「貴女もブラジル人か?」と訊いた。「違う。私はドイツ人だ」という声が返ってくる。それに続いて、何やらまくしたててきた。
私が幾分か理解できた範囲では、こういうことであった。「日本は面白い国である。日本の人々もいい人だ。しかし、日本のディレクションはなってない」、と言う。どうも、そのドイツ人のバアさんが言う”ディレクションがなっていない”ということ、指示や説明がはっきりしていない、ということらしい。
「撮影禁止のところも多い。その指示説明も明確ではない」、とも言う。確かに、そう言われればそうである。
霊宝館にしろ、金剛峯寺にしろ、この根本大塔にしろ、内部は撮影禁止である。しかし、その表示はさほど細やかではない。
根本大塔にしろ、その表示はあるにはある、という程度。しかも日本語の他には英語のみ。京都の寺のように中国語や韓国語の併記はない。
何より、極彩色の立体曼荼羅として喧伝されている根本大塔内に係員がいない。実は、根本大塔の中へ入るには、入場料がいる。その表示はある。しかし、その表示はごく小さい。日本人でも見落としてしまう人もいよう。悪気はなくても、半分ぐらいの人は入場料を払わないで内部へ入っているのでは、とも思える。
ドイツ人のバアさんが言うように、指示であり説明がしっかりとなされていないんだ。
どうしてかな、と考えた。
行きついた先は、こういうこと。”驕り”じゃないか、ということである。
”密教の根本道場である。世界遺産でもある。ありがたく、その場に身を置け”、と語らないまでもその言外に現われているのではないか、と思われる。高野山、傲慢であるのかもしれない。
ドイツ人のバアさんの指摘、的を射ている、とも言える。
根本大塔の上から。
左は金堂、右の方には御影堂と准胝堂が見える。味わい深い。
中央部の朱色の柵で囲われたものは、三鈷の松。
御影堂。
その奥には准胝堂、そして孔雀堂。
石燈籠の向うには准胝堂。
小ぶりなお堂・孔雀堂の前で祈っている人がいる。
さらに奥へ歩むと・・・
西塔が現われる。
887年、光孝天皇の勅命により建立された。
正面から西塔を見る。
塔の前の石燈籠は、あの華岡青洲が寄進したものだそうである。
ここにも鐘楼が。
その横をすぎて行く。
何と、御社が現われる。
ンッ、何とである。高野山の壇上伽藍にお社だ。
五木寛之著『百寺巡礼』(2004年、講談社刊)の第六巻にこういう記述がある。五木も驚いている。
<これまでにも、寺の境内のなかに神社がある光景をたくさん見てきたが、高野山の中核である壇上伽藍に神社があることは、はじめて知った>、と記し、その暫らく後にこう記す。少し長くなるが、それを引く。
<仏教という新しいカルチャーが日本に入ってきたときに、古来の信仰や神々を押しのけたり、それと戦って征服するという形では、たぶんうまく定着しなかったにちがいない。空海は高野山に先住する神々を大事に祀って後、真言密教の道場を建立した>、と記す。
さらにその少し後に、こう記す。
<しかし、そういうふうに神仏習合のかたちをとってきたからこそ、真言密教がこの地に根付いたのだとも考えられる>、と。
古来、一神教ではない日本の風土、神仏習合程度のこと、”お茶の子さいさい”である、ということであろう。
山王院。
御社の拝殿である。
神と仏の融合、多神教の日本ならでは。
壇上伽藍、東の東塔から西の西塔まで2〜300メートル程度ではなかろうか。ひと通り巡った。
この後、4〜500メートル先の大門へ行こうと思っていた。私の足でも15分程度で行けるであろうから、と。時刻は、まだ4時前であるし、と。
しかし、大門へは行かなかった。少し疲れた。どこかで座りたい。喫茶店でもあれば、座ってコーヒーを飲みたくなった。
壇上伽藍を下り東の方、町の中心部の方へ歩いた。喫茶店を探して。
あと一日、続けよう。