さすが清順。

日本最古の映画会社は日活である。昨2012年9月、創立100周年を迎えた。で、その前年の2011年秋から、日活100年の中から選りすぐった作品をまとめ、世界巡回上映をしていた、という。
まずニューヨークから始まり、ナント、パリ、香港、さらにカナダ、スイス、イタリア、ドイツなどを回った模様。

日活100年ともなれば、そのポスターはやっぱり浅丘ルリ子だな。吉永小百合って声もあるだろうが、”華”ってことで言えば、やっぱり浅丘ルリ子だ。
異議はない。

「日活映画 100年の青春」、世界巡回を終え凱旋帰国した。
で、昨秋からは、”凱旋帰国特集”と銘打ち国内を巡回している。昨年は東京、大阪、名古屋で上映。千葉には、今年6月から7月にかけて回ってきた。
この鈴木清順のヤクザ映画『東京流れ者』も。

1966年の鈴木清順の作品だ。
主演はデビューして間もない渡哲也。
その前年、渡哲也の歌う『東京流れ者』がヒットした。それ故の映画製作、常套、当然である。
     何処で生きても 流れ者
     どうせさすらい ひとり身の
     明日は何処やら 風に聞け
     可愛いあの娘の 胸に聞け
     ああ 東京流れ者
『東京流れ者』の作曲者は不詳である。何人もの人が歌っている。渡哲也が歌っているものの作詞者は川内和子。

ハジキをかまえる渡哲也。ヒロインは松原智恵子である。
渡哲也が属する倉田組、ヤクザ稼業から足を洗い堅気になった。しかし、そうは問屋がおろさない。弱みもある。借りた金が返せないんだ。その弱みにつけこみ、かっての対抗ヤクザ、大塚組が無理難題を押しつけてくる。
冒頭の場面がいい。
長い列車が停まっている。その側を渡哲也が歩いてくる。列車が途切れた所には、大塚組の連中が待っている。渡哲也、これでもかというほどにやられる。しかし、抵抗は一切しないんだ。もうヤクザからは足を洗ったんだ、と。
鈴木清順、デビュー間もない渡哲也を美しく撮っている。
脚本は川内康範なんだ。川内康範と鈴木清順、どう折り合いをつけるんだ、と思う。ところが、すんなりと折り合いはつくんだ、これが。
そこで、清順美学が爆発する。
大塚組から狙われた渡哲也、旅に出る。山形へ。そこで、倉田組と大塚組の代理戦争が始まる。
この映画、懐かしい日活の顔が出てくる。二谷英明、川地民夫、宍戸錠の弟の郷硏治も大塚組の組員として。
鈴木清順、渡哲也のヒット曲に即した映画を撮った。会社、日活の意向に沿って『東京流れ者』を撮った。
しかし、さすが鈴木清順、タダでは起きない映画を撮った。任侠風のヤクザ映像、歌謡、ミュージカル風の映像、コメディータッチの映像まで。
東京、山形、佐世保、そして東京、とロードムービーでもある。
さすが清順という映画。面白さ、堪能した。
ところで、『東京流れ者』の歌。よく知られているのは、竹越ひろ子のものであろう。”東京流れ者”でなく、”東京流れもの”である。作詞は永井ひろし。
     流れ流れて 東京を
     そぞろ歩きは 軟派でも
     心にゃ硬派の 血が通う
     花の一匹 人生だ
     あぁ 東京流れもの
しかし、私が好きな『東京流れもの』は、藤圭子が歌うこれ。作詞は石坂まさを。
     風が吹いたら 吹かれます
     雨が降ったら 濡れまする
     馬鹿な男と 云わりょうと
     馬鹿は承知の 一本気
     あー 東京流れもの
歌は歌とし、鈴木清順のヤクザ映画、さすが清順の映像美。