逃げない、泣かない。生きるんだ。

川べりの村、世間一般のそれとは少しかけ離れた村がある。貧しい暮らしであるが、住民たちの日常は祝祭が続く。
自然の猛威が襲う。地球温暖化の問題もある。当然のことに生態系の変化もある。現代離れした現代の物語である。

『ハッシュパピー〜バスタブ島の少女〜』、監督はベン・ザイトリン。
弱冠29歳、全く無名の新鋭。昨年のサンダンス映画祭でグランプリを取り、今年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞の主要部門でノミネートされた。

”ハッシュパピー”、主役の女の子の名である。
その子に扮したのは、クヮヴェンジャネ・ウォレス。撮影時には、6歳。1年がかり、約4000人のオーディションで選ばれた、という。いやー、上手い。舌を巻く。
今年のアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた。歴代最年少として。
今年の主演女優賞には、『愛、アムール』のエマニュエル・リバが歴代最年長としてノミネートされ、最年少と最年長で話題を呼んだが、結局取ったのは、今が旬のキャピキャピの若手、『世界にひとつのプレイブック』のジェニファー・ローレンスであった。それは妥当。
しかし、”ハッシュパピー”の女の子も演技を通り越した凄いと言える所作であった。

バスタブ島に大嵐が襲う。ハッシュパピーも流される。
一体バスタブ島はどこなんだろう、と思う。
どうも、アメリカ南部のルイジアナ州の一地域らしいんだ。もちろん、”バスタブ島”は架空の島であろう。しかし、物語は、必ずしも架空の物語ではない。
ルイジアナあたり、ハリケーンはよく来るし、アフリカン・アメリカンが多くいる所であるし。

ハッシュパピーは、父親と一緒に住んでいたんだ。酒飲みの父親が倒れる。親子に残酷な現実が迫る。
誰のパパも死ぬんだ。
「生きる術を学ぶんだ」、と父親は娘に言う。「魚の捕リ方を覚えろ」、と。
”生きるんだ”、と。

はるか昔、地球に氷河期が訪れた時に絶滅したオーロックスも出てくる。デカイ牙を持った大きな生き物だ。

ハッシュパピー、「あたしは強くなる」、と言っている。
そうなんだ。
小さな少女、逃げない、泣かない、そして、生きるんだ。
ファンタジーなんてものじゃない。それを超えた物語。