面白いことって、行き当たるものだ。

面白いことってあるものだな、と思った。行き当たるものなんだ。
昨日は、学生時代の古い仲間の山本宣史の作品を見に、新宿のゴールデン街へ行った。今日は、やはり古い仲間の犬飼三千子の作品を見るために、上野の都美術館へ行った。第56回新象展。
新装なった東京都美術館、さまざまな公募展が開かれている。

新象展、56回だそうだ。
犬飼三千子、四六時中、個展やグループ展をやっている。それらには案内をもらい行っているが、団体に属していることは知らなかった。
確かに、新象作家協会の団体展、ユニークではあるな、との感は受ける。少なくとも、二科なんかとは違う。やはり仲間の二科の久保寺洋子には悪いが。

犬飼三千子作≪天舞≫。
犬飼から来たメールにこう書いてあった。長さ5メートルの作品、と。
5メートルの作品、天井から吊り下げて床に垂らしているのかな、と思っていた。実際は、上下ではなく、左右が5メートルの作品であった。それでも大きい。

斜めから見てみようか、≪天舞≫を。
上の5メートルの画面には、”きららきらら”、という平仮名が記されているような気がする。
下の5メートルの画面には、敦煌、莫高窟の飛天が思われる。莫高窟に描かれた飛天、描かれた当初はこのような色調であった、と私は考える。犬飼の色調、そのような色である。

少し引いてみる。
少し先にイスに座った人がいる。
どうも、目の前のものをスケッチしているようである。

より近づくと、確かにそう。目の前のものをスケッチしている。この前の作品も大きい。
この写真の左の方に何か掲示がある。

こういうことが記されている。
新象展第10室、実験を行っているんだ。犬飼三千子、その実験に挑んだようだ。

犬飼三千子の左の作品も大きい。これである。
吉田佑子作≪循環≫。
私は、それに近づき、その前でスケッチをしている人に声をかけた。
「アノー、写真を撮らせてもらってもいいでしょうか」、と。「どうぞ、いいですよ」、という声が返ってきた。
「アノー、私はこちらの犬飼三千子の学生時代の仲間で、犬飼の作品をブログに載せるつもりでいるのですが、貴女のこともそこに書いてもいいでしょうか」、と聞いた。
「じゃあ、貴方も○○○ですか」、という声が返ってきた。「そうですが、貴女は犬飼さんをご存知なんですか」、と聞いた。
「私、姉です」、という声が返ってきた。
驚いた。犬飼三千子の絵のキャリア、どうもすべて、このお姉さんがあったれば、ということのようであるんだ。
許しをもらって、スケッチブックを写した。

エンピツを走らせている。
「この作品、どうして作るんですか」、と聞いた。ここへ素材を持ってきて、この場で作るんだそうである。
「この後はどうなるのですか」、と聞いた。「解体します」、という答え。
それなら、その後の作品の保存などは、との問いに、「写真や映像に記録してあります」、との答え。

犬飼三千子のお姉さん、吉田佑子さんという。
色鉛筆を使ってスケッチを続ける。
「クリストのようですね」、と話す。と、吉田佑子さん、こう答える。「クリストのスケッチはいっぱい売れるが、私はそうはいかない」、と。
クリスト、今、世界中の現代美術を標榜する美術館には、必須の作品である。あのハーブ&ドロシーがスケッチをと訪ねて行ったが、とても手が出ず「来るのが遅すぎた」、と言ってショボンと帰ってきたクリスト。
吉田佑子さん、そのクリストと同じである。スケッチが売れる売れないは問わず。

吉田佑子さん、Youtubeに映像をアップしている、と言う。
「ユーコ ヨシダ サーキュレイション」、とyoutubeにアルファベットで入力してもらえれば出てくる、という。

確かに吉田佑子さんの作品、出てくる。Youtubeには吉田佑子さんの昨年の作品、ギャラリー檜plusでの≪Circulation 2012≫とあと一つ、6分余と8分余の動画がアップされている。
「私はアーティストとして素直に自然を見つめている。私は生きとし生けるものを讃える表現を深めて行きたい」、という言葉と共に。
吉田さん、こう話す。
「この作品のタイトル、”循環”となってますが、正確にはその前に”自然の”という言葉が付いているのです」、と。”自然の循環”なんだ。Youtubeで流れる動画には、「木の再生を願って・・・・・」という文言も流れる。
美の上に、強い意志を主張している。

公表されている記録によれば、吉田佑子さん、1957年に東京芸大油絵科を卒業している。その後、多くの個展その他数多くの発表の場を持たれている。

吉田佑子の作品、網とロープと木を使った作品。
ロープによる造形をはじめたのは、1984年であるそうだ。
<私のロープの作品は切られた木の再生を願ってスタートしました。それ以来いつも捨てられる木とロープ、網、布などで制作しています>、と作家は語る。
ネット上で知ったことによれば、吉田佑子のロープを使った作品、中学校の美術教科書へも採用されたそうである。社会へのコミットメントが強いアーティストであるから、ということであろう。

左右5メートルの犬飼三千子の作品写真、今、一度。それプラス何かということかな。
思いもかけず、面白いことがあった。行き当たったんだ。
暫らく後、吉田佑子さん、スケッチブックをたたみ、イスもパタパタと片づけた。そして、「私、教室で教えていますので、これから行かなければならない」、と言う。「ありがとうございました。ブログに書いた時にはお知らせします」、と応えた。
吉田佑子さん、スケッチブックなどを抱えスタスタと歩いて行った。