宵の新宿。

紀伊国屋の前で待ち合わせ、古い友人・R.H.とN.Y.とで居酒屋へ入る。区役所通りの居酒屋、とても安い店。
時間は5時。今の時季、5時は日中同然、明るい。しかし、広い店内、年寄りがいっぱい。元々この店を知るR.H.が言うには、西口の店は若いヤツが多いが、ここらあたりは年寄りが多いんだ、と。
そこで1時間ばかり飲んだ。で、いよいよゴールデン街へ。バー・十月での山本宣史展へ。

区役所通りからゴールデン街へ入る。
まだ明るい。

ゴールデン街のバー・十月の下あたりで、地図を広げている外国人の二人連れがいた。
どこから来たんだ、と声をかけた。フランスからだと言う。フランスのどこから、と聞くと、パリだと言う。パリのどこからだ、と聞いた。17区、という答えが返ってきた。そうか、いいなーパリは、と言う。今年は行っていないが、去年は少しの間いた、と話す。日本人はパリが好きだから、と彼らは言う。そうだよ、日本人はパリ大好き、と応える。
と、ガタイの大きな男こう言う。多くの店に電気がついていないのだが、と。
当たり前だ、このあたりは9時ぐらいから賑やかになるんだから、と話す。
ところで、フランスでここゴールデン街は知られているのか、と尋ねた。彼らが言うには、知られているそうである。おそらく、フランス版「地球の歩き方」のようなものに載っているのであろう。
彼らには、ゴールデン街には、これから私が行くような安い店が多いが、そうじゃない店も混在している、ということを話し、十月の階段を上った。

バー・十月での山本宣史展、ここがメーンであろう。
左から、≪宵≫、≪我思う故に我あり≫、≪侘助≫、≪姫桧扇水仙≫、≪艶≫。
いずれも、山本宣史が得意とする水墨画乃至は膠彩画である。

≪艶≫。
山本宣史、このモデルの目がいいんだ、と言う。

で、目のところだけ取り出そう。

うちわ。
右側の二つは、阿吽の様が描かれている。
「裏も手に取って見て下さい」、と書かれている。

その裏。
紀貫之の歌、
     人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける
このにこやかな男は、作者・山本宣史。

カウンター内にも作品がかかる。
≪紫花≫。

カウンターのイス席のすぐ後ろにも。
右側の作品は、≪椿≫。

トイレの中にも作品はあった。小さな作品、≪柚子≫。
なお、右下の「とんとん月を抱いて帰ろう」は、十月のママの歌集のポスター。

山本宣史、こう言う。今回の展示、その目玉はこの小さな作品なんだ、と。≪猩猩≫という作品。猩猩、」オランウータンであるそうだ。
その案内ハガキの≪猩猩≫である。
ところで、宵の新宿、ゴールデン街で会ったパリの若者二人連れ、どこらあたりの店に入ったのかな。ぼったくりでない店に入っていればいいな、と思う。
夜の新宿こぼれ花、だったか何だったか、そういう歌があった。
しかし、今の私には、夜でなくて宵。まだ明るい宵の新宿である。