世界にひとつのプレイブック。

4〜50年前の日本、如何に死ぬべきか殺すべきか、という若者がいた。そのことに、シャカリキになっている若者たち。少し前のアメリカにも、シャカリキになっている若者がいる。こちらは、自らの心の揺れと戦っている若者である。
作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞に加え、31年ぶりという主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、つまり、全演技部門を含むアカデミー賞主要8部門にノミネートされたこの作品の主人公である。
ラブコメである。ロマンティック・コメディーと言ってもいい。とてもよくできている。「いやー、面白い」っていうのは、こういう映画を指すのであろう。
アメリカ、自ら望んでの死、自殺率は日本の半分以下であるが、如何に通常の生に戻るべきか、と戦っている若者は多いものとみえる。

監督、脚本:デヴィッド・クーパー。上手い。
主人公のパッド、カミさんの浮気現場に出くわし、おかしくなる。すぐキレる。躁鬱症である。精神病院に入院し、やっと退院、自宅でリハビリ中。
毎日、黒いポリのゴミ袋を着てジョギングをしている。首や手のところをくり抜いた黒いポリ袋。
ある日、ジョギング中のパッドの前に、「ヘイ」、と言って飛びだしてきた女がいる。名はティファニー。ダンナが事故死した。そのショックで少しおかしくなっている。ティファニー、走りながらパッドをベッドに誘う。
「なぜ会社をクビになったんだ?」というパッドの問いに、ティファニーはこう言う。「会社の男全員とやったから」、と。ティファニー、会社の同僚の男、11人全てとセックスをしたらしいんだ。会社の男すべてが11人、というのも面白い。中小企業というより零細企業、リアリティーがある。
ジョギング中、いきなり現れたティファニーからベッドに誘われたパッド、即座に断る。「オレは、お前みたいな尻軽じゃないんだ」、と言って。実は、パッド、浮気されたカミさんに未練があるんだ。両親からは、「やめとけ」と言われているんだが。

”PLAYBOOK(プレイブック)”とは、アメフトの作戦図のことだそうだ。
人生、思い通りにはいかないもの。でも、世界にひとつのプレイブックもあるんだ、な。


確かにこういうことなんだ。

パッドの父親に扮したのはロバート・デ・ニーロ、母親にはジャッキー・ウィーヴァー。
共にアカデミー賞の男女助演賞にノミネートされる。ま、それはいい。それよりだ。パッドの父親である。ロバート・デ・ニーロが演じている男である。
彼、アメフトのフィラデルフィア・イーグルスの大ファン。暫らく前からアメフトのノミ屋をやっている。いやー、面白い。

芸達者が揃ったこの映画、中で気を吐いたのが彼女。ジェニファー・ローレンス。
並みの女優じゃない。
『ゼロ・ダーク・サーティー』のジェシカ・チャステインや『愛 アモール』のエマニュエル・リヴァを抑え、アカデミーの主演女優賞を取った。
それにしても、ジェニファー・ローレンス、まだ22歳の若い女優。
この何と言うこともない顔貌の女優、今後、アメリカの名女優の系譜に記される女優となること、疑いはない。
メリル・ストリープであり、さらに遡ればキャサリン・ヘップバーンであるというアメリカの名女優の系譜に。