フライト。

フロリダ州のオーランドからアトランタへ向かっていた旅客機が、突然急降下を始める。それまでの乱気流を巧みな腕で切り抜けた機長は、水平飛行に移ったあと、操縦を副操縦士に任せ眠っている。旅客機は高度3万フィートからどんどん落ちる。
機長の出番である。いや、その状況は、こんな悠長なことを書いている状態ではない。旅客機はどんどん落ちていくのであるから。
不時着し、乗客、乗員102人中96人が生還する。あり得ないことが起こる。

ウィトカー機長は、一夜にしてヒーローとなる。当然だ。あり得ないことを成し遂げたのであるから。
ところが、ある疑惑が浮上する。ウィトカー機長の血液からアルコールが検出されていた。そうであるなら、終身刑となる。
はたして、”ウィトカー機長は、ヒーローか犯罪者か”、これがこの作品のメインの惹句。
ウィトカーの弁護士は言う。「10人のパイロットにあの事故をシミュレートさせた。すべて全乗客が死亡した。多くの人を生還させたのは君だけだ」、と。だから、ウィトカーはヒーローである、と言えよう。
この作品の冒頭はこうである。オーランドのホテルの一室。気怠く目覚める男と女。ウィトカー機長と客室乗務員の女。中年のウィトカー、家庭は崩壊している。特に息子との間は最悪の状態である。搭乗前夜も客室乗務員と過ごし、さほど寝ていない。さらに、酒も飲んでいる。実はウィトカー機長、アルコール依存症なんだ。
実は、オーランドからアトランタへの機上でも飲んでいるんだ。ウォッカを。腕は確かだがアル中。
だから、”彼は、ヒーローか犯罪者か”、となる。
ウィトカーは、ヒーローである。それとともに犯罪者でもある。それよりも、彼は人間である。
アル中であり、家庭は崩壊しており、また実は、ではあるが、コカインも使っており、異常なばかりの嫌煙志向のアメリカでタバコも吸っている。これは何と言っても、人間だ。
ヒーローであり、犯罪者である以前に、人間である。

監督:ロバート・ゼメキス、主演:デンゼル・ワシントン。
共に、今までアカデミー監督賞、アカデミー主演男優賞を受賞している二人が組んだ。この作品も、本年度のアカデミー賞の脚本賞と主演男優賞にノミネートされていた。授賞は惜しくも逃したが。

背面飛行である。
戦闘機の背面飛行はある。しかし、旅客機の背面飛行なんてあり得ない。現実にあるかどうかは分からない。でも、不時着、胴体着陸までの過程では背面飛行が必要であった。おそらく、非現実的なことであろうが。
非現実は非現実でよし。現実は、いかにも人間、という状況設定。確かにそう。
最終局面、ウィトカーが事故調査委員会だったかどうか何かの場で、飛行中にウォッカを飲んだと言う場面、血の通った人間、と思えた、な。