東京家族。

10年ほど前、イギリスの映画専門誌が、”今までで最も優れた映画は何か?”、と世界中の映画監督たしか三百数十人に問いかけた。その結果、最も多くの監督が”これが一番”、とあげたのが小津安二郎の『東京物語』であった。
小津安二郎の『東京物語』、丁度60年前、昭和28年(1953年)の映画。しかし、私には、これが映画史上最も優れた映画である、とは思えない。小津の無常感が受けとれる映画ではあるが。
暫らく前、大島渚が死んだ時にも記したが、山田洋次は功成り名遂げた男である。芸術院会員でもあり文化勲章も受けた。その山田洋次、松竹の小津安二郎の後輩でもある。小津安二郎へのオマージュ、リスペクトを捧げる映画を作った。小津の『東京物語』に対し、『東京家族』。

瀬戸内海の島に住む平山周吉ととみこの老夫婦、東京に住む子供たちに会うため、新幹線で上京する。
平山周吉は橋爪功、ともこは吉行和子が扮する。『東京物語』では、笠智衆と東山千栄子(「とみこ」ではなく「とみ」であったが)が演じた役。まず、東京と言っても西の方、多摩地区と思しき長男の家に行く。長男、町医者である。忙しい。孫もいる。会うのはずいぶん久しぶりの様子。
美容院をやっている長女の滋子(『東京物語』では「志げ」。杉村春子だった)も、親をそうかまってやれない模様。皆んな大変なんだ。
長男夫婦も長女夫婦も大変なんだが、老夫婦の心配事は次男なんだ。舞台美術をしていると言っているが、何をしているのか、将来性があるのか、老夫婦にはさっぱり解らない。次男が結婚しようと決めている娘・紀子も出てくる。
小津安二郎の『東京物語』には、次男は出てこない。戦死している。が、その嫁が出てくる。原節子が演じる。名前は同じ、「紀子」。山田洋次の『東京家族』では、その紀子役に蒼井優が扮する。原節子と蒼井優、その美の基準は異なるが、共に優。優れている。
ハッキリ言って、『東京家族』、蒼井優が出てきて引きしまった。母親の吉行和子とのやりとり、お互い、このような人ならば、という思い。

山田洋次、一昨年の4月にクランクインしようと考えていたそうだ。
しかし、3月11日に東日本大震災が起こった。東電の福島第一原発での事故も起こった。山田洋次、シナリオを書き直したそうだ。大震災、原発事故、それらを踏まえた現在の日本を描こう、と。
次男の昌次と紀子が出会うのは、大震災後のボランティアで行っていた三陸の地。であるのであるが、その必然性、さほど感じられない。
山田洋次の『東京家族』、小津安二郎の『東京物語』をなぞったものである。山田洋次自身、こう言っている。「真似をして、何の恥じることがあろうか」、と。リスペクト作ではあるが、完全なリメーク作。模倣作と言ってもいい。
「いのちあるもの おしなべてさけがたい 親であり子である つながりが生む かぎりないよろこびとかなしみ」。それを現在の家族に、ということだ。

全てはここにある。
山田洋次の監督50周年の作。監督81作となるそうだ。
昨日記したイギリスの映画『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』は、イギリスの元気印のジイさんバアさんの物語であった。今年78歳となるジュディ・デンチなど、ビル・ナイ扮する男から思いを寄せられていた。イギリス人のジイさんバアさん、皆さん元気なんだ。
翻って、『東京家族』の老夫婦、平山周吉と滋子を考える。彼ら、まだ72歳と68歳なんだ。橋爪功、あまりにも背中を曲げすぎていた。そればかりじゃない。『東京家族』の映像、あまりにも古すぎる。スカイツリーは出てくるが、その映像、今とは思えない。平成ではなく、昭和の映像であろう。
山田洋次、それでいいのか。