東博の巳(続き×3)

イケメンの若い僧・美形の安珍、そして、その安珍を追いかける娘・清姫、女はコワいって物語が、安珍清姫の伝説だ。その道成寺縁起の異本がこれ。『日高川草紙』。
<女と契を結んだ僧が自らの業を悔い、女のもとを去るが、日高川を舟で逃げた僧を追って女は入水。やがて大蛇に変じ、鐘の中に隠れた僧を連れ去ったという、道成寺説話に基づく絵巻>。
イケメンの僧・安珍は美形の僧・賢覚に、清姫は遠州橋本の長者の娘となっている。

『日高川草紙』(摸本)。紙本着色、江戸時代 18世紀。
<水かさの増した日高川を舟で逃げる僧・賢覚。そのあとを追いかけ、賢覚と関係を結んだ遠州(静岡県)橋本の長者の娘が入水する>。
『今昔物語』の世界。だから、1000年以上前のお話。

<女はやがて蛇身に変じ、賢覚のあとを追う。賢覚は「南無大聖不動明王、三所権現」と唱え、大蛇を追い払おうとする>。
イケメンの男ってのも大変なんだ、とみえる。

<岸に着いた賢覚、今度は「南無三宝」と唱えて必死に逃げるが、雷鳴のような声をとどろかせ、鋭い爪をたてた大蛇がそのあとを追う>。
逃げりゃ追うってのが自然の摂理であるとは言え、ねー。

<賢覚はとある古寺にたどり着き、釣り鐘の中に隠れたところ、大蛇がその鐘に巻き付いた>。
賢覚すなわち安珍、哀れにも鍾もろとも焼き殺されてしまう。
恋に盲いた女はコワい、という物語であるが、後日譚もある。安珍、清姫、二人とも成仏できるんだ。道成寺のご住持のはからいで。
物語りだからね。それにしても、面白い絵巻だなー。

能面 蛇(じゃ)。
木造 彩色。江戸時代 17世紀。
<「蛇」の面は「般若」などと同じく、女の怨霊を表す面である。能の「道成寺」で、最初に登場する女性(前シテ)は、やさしい表情ををしているが、鐘の中から再び登場する(後シテ)時は、このような恐ろしい表情に変化する>。
この面、「般若」かと思ったが、「蛇(じゃ)」だそうだ。

摺箔。
白地鱗模様。江戸時代 18世紀。
<型紙で糊を置き金箔を貼り付けた能装束を摺箔という。正三角形を繋げた模様は龍や蛇の鱗を象徴し鱗形と称した。能舞台においては、例えば「道成寺」という演目において、僧に恋しその執着のあまりに大蛇となった娘が鬼女の姿で登場する際に着用する>。
鱗形の摺箔、どこまでも引きずりこまれる測りがたい深みを感じる。

日本の芸能、大陸から伝えられたものが多い。1200〜300年前の奈良時代からの舞楽もそう。その演目のひとつ「還城楽(げんじょうらく)」には、ヘビが登場し、「見蛇楽(けんじゃらく、けんだらく)とも呼ばれる。その装束である。
舞楽装束 還城楽。(裲襠、袴)。江戸時代 19世紀。
<唐楽の一人舞で、吊顎で赤く顔面を塗った仮面をつけた赤い筒袖の袍(上着)に裲襠と呼ばれる走舞独特の貫頭衣をかぶり、唐織製の華やかな袴を着用する。ヴェーダ神話の抜頭(Pedu)王が退治した・・・・・>。
これもヘビがらみなんだが、その衣装。カッコイイ。

還城楽図額。
海野勝萊(1844〜1915)作。明治25年(1892)。
<金、銀、銅やそれらの合金を使用し、多彩な色合いで舞楽「還城楽」を表現した額である。蛇と向かいあう舞人が、きわめて写実的に表わされている。海野勝萊は明治時代を代表する金工家で、このように舞楽をテーマにとった作品も数多く制作している>。
ウーン、そうかって作品。何とも言えない。

応永舞楽図巻(模本)。
狩野晴川院養信模。紙本着色。江戸時代 文政3年(1820)。
<還城楽をはじめとする・・・・・。応永15年(1408)に写されたものを、文政3年(1820)に狩野晴川院養信がさらに写したのが本図で・・・・・>。
趣きのある絵だ。
でも、今日で1月もお終い。「東博の巳」も含め正月がらみ、すべて打ちあげとする。