蛇づくし。

十二支それぞれに動物が当てられていることには、さしたる意味はないそうだ。それよりも、その理由が、然としないそうなんだ。
今年の干支は巳。元々は、子宮内の胎児の形を表している文字らしい。本来の読みは、「し」である。それを「み」と読み、「蛇」を当てた、と言う。
子、丑、寅、卯、辰、巳、・・・・・、戌、亥。十二支それぞれに動物が割り振られた。鼠、牛、虎、兎、竜、蛇、・・・・・、犬、猪、という具合に。
リタイアした後の私、年賀状のやり取りを絞った。仕事がらみでやり取りしていたものは、ほとんど止めた。今では100通ばかりとなった。毎年、その年の干支の動物の絵が入った年賀状は来る。
鼠や牛は少ない。虎はまあまあある。兎は可愛いがそう多くはない。竜はどうこう、何はどうこう、あくまでも感覚的なものであるが、干支の動物の絵が描かれた年賀状が多いのは、虎と猿、それに蛇。
今年もさまざまな蛇の絵が来た。
蛇は、神さまの使いと言われる。しかし、蛇は気味が悪いとか、執念深いとか、と言って嫌う人もいる。逆に、蛇は豊穣の神であるとか、脱皮を繰り返す故、復活と再生を表す、というイメージを持つ人もいる。
クネクネっと曲げた形を描けば蛇になる。描きやすい、ということもあるかもしれない。でも、案外多くの人に親しまれているもの、と見える。今年届いたそのような蛇づくしの年賀状の中から、これは面白い、という特徴のある蛇を何匹か。

ずいぶん可愛い蛇だな。おたまじゃくしと間違えちゃうよ。
でも、蛇なんだ。漢字じゃなくて、カタカナのヘビだな。いや、ツチノコかもしれない。いずれにしろ、へび。蛇が3匹いるな、と思った。しかし、よく見ると、その周りにクネクネっとしているもの、みんなヘビのように見えてくる。幼稚園の子供からの年賀状のようだが、そうではないんだ。
恐らく、80半ば過ぎの人からの年賀状なんだ。
20数年前、インドのバラナシ(ガンジス河で多くの人が沐浴をしているところ)で会った人なんだ。私の顔を暫らく見つめ、「日本人ですか」、と声を掛けてきた。
話しを聞けば、北里大学医学部の医者で、インドへレプラの研究と治療に来ている、という先生。大学病院の中ばかりにいたので、インドの外の世界に出ると、恐くって仕方ない、と話していた。私より10歳以上年上に思えたので、今では80代半ばであろう。
80代半ばの人が、幼稚園児と同じような絵を描く、とても面白い。

この蛇も可愛い顔をしている。何よりも、その色彩が美しい。
私の学生時代のサークル、軟弱なサークルであった。世に知られた人、さほどいない。中でこの作者の男、よく知られた一部上場企業の役員を長く務めた男。サークル仲間では、稀有な存在。
ビジネスの場では、多くの厳しい戦いを繰り広げて来ただろう。それはそれとして、とても美しい絵を描いている。可愛いヘビを。

洒落た蛇じゃないか。何げな感じが、粋である。
この男も学生時代のサークル仲間。木版画の達人である。この絵も木版画。
この蛇、頭は走り去っている。その後に、クネクネっとした胴体が続いている。
洒落てるなー。

何じゃこれってものもある。
これ、従姉妹のJからのもの。”「少年ケニヤ」のつもりです”、なんて書いてある。「少年ケニヤ」の何とか少年、大きな蛇に乗っている。
「少年ケニヤ」、60代以上の世界だろう。でも、従姉妹のJ、目の付け所はいいよ。巳年、蛇年で、多くの蛇の絵が来たが、「少年ケニヤ」と来たものは、これのみだった。

このイタリアの教会の壁画を送ってきたのは、大学の学部の同級生の女性。
イタリアの教会のミツウロコが連なったような蛇、成るほどな、って感じがある。
イタリアらしいオッシャレーな蛇だ。あちこちに行っている人なので、ひょっとしたら世界中あちこちのオシャレ蛇を知っているかもしれない。

蛇を描いた今年の年賀状、大とりはこれである。
今年来た年賀状に描かれた蛇の中、最も怖い蛇であった。
少年ケニヤの蛇と同じく、チロチロと舌を出しているが、こちらの方が恐い目をしている。本線である。
でも、この絵を描いた人は、とても知的でソフィスティケイテッドな人。某大手出版社で初めての管理職となった女性、と言われている人。お歳を召しているが、この蛇の躍動感を見るとお若い。
巳年、蛇づくし、面白し。