アルゴ。

1979年、イラン革命は成る。専制君主・パーレビは国外へ脱出、暫らく後、癌治療を口実にアメリカへ。
急進的なイスラム革命、テヘランのアメリカ大使館が学生等に襲われ、乗っ取られる。約60人の大使館員、人質となる。彼らの要求は、アメリカ国内にいる前国王・パーレビの身の引渡し。
大使館が襲われた時、6人のみが大使館からの脱出に成功、カナダ大使の私邸に匿われる。大使館内の人質は52人。脱出し、カナダ大使の私邸に匿われているのが6人。
大使館内の人質の奪還は大事だ。おいそれとは決行できない(5か月後、アメリカは人質奪還の軍事作戦を決行するが、失敗に終わる。52人の人質が解放されるのは、パーレビの死後、人質に取られて444日後であった)。
人質の方は、そういうことなんだが、大使館を脱出、カナダ大使の私邸に匿われている6人のアメリカ大使館員のイランからの脱出は、緊急を要する。その内には見つかる。見つかれば、必ず殺される。何しろこの頃のテヘラン、町中では、クレーン車から首を吊るした公開処刑が行われているんだから。
タイムリミットは72時間。CIAの偽変工作のプロ、トニー・メンデス、CIA史上最もクレイジーな奪還作戦を考案、実行する。
ウソの映画制作をぶち上げる。SFファンタジーである。タイトルは「アルゴ」。撮影地はイラン。テヘランで身を潜めている6人のアメリカ人は、この映画の撮影スタッフのカナダ人、とする。
CIAの上層部は、こんなクレイジーな奪還作戦を認めない。成功するわけがない、と言う。しかし、最後には折れる。”ベスト・バッド・アイデア”、バカみたいなものだが、これしかない、ということだ。
実は、これは実話なんだ。
アメリカ大使館人質奪還作戦の失敗で、時の大統領・ジミー・カーターは、再選されない数少ない大統領の一人となった。しかし、成功したカナダ大使私邸からの6人のアメリカ人の奪還作戦は、公にはされなかった。真相が公表されたのは18年後、ビル・クリントンの時。ジミー・カーター、18年間、自らの胸の中にのみ伏せていた。
この映画「アルゴ」、監督はベン・アフレック。主役であるCIAのトニー・メンデスに扮するのもベン・アフレック。


ベン・アフレック扮するCIAの人質奪還のプロ、トニー・メンデス、テヘランへ乗り込む。カナダ大使の私邸に行き、6人のアメリカ人に脱出作戦のことを話す。
「そんなこと上手くいくはずがない」、6人のアメリカ人は言う。「できる。私は貴方がたを救いだす」、とトニー・メンデス。皆、怖い。
イラン側からバザールへ行くように、との指示を受ける。トニー・メンデス、SFファンタジーのカナダ人撮影クルーに擬した6人を連れ、バザールへ行く。熱狂のイラン人たちに囲まれる場面が何度もある。
秘かに、6人の写真も撮られる。この6人、アメリカ大使館員だということがバレるのも、時間の問題となる。アメリカ大使館が襲われた際、資料や写真などはシュレッダーへかけられた。しかし、アメリカ大使館を占拠したイラン側、シュレッダーにかけられた資料や写真を繋ぎ合わせる作業をしていた。子供を使って。
だから、時間の問題。
史実として、最後には脱出した、と分かってはいても、ハラハラドキドキが続く。

監督、主演のベン・アフレック、アメリカではクリント・イーストウッドの後を継ぐ男、と言われているらしい。確かに、そういう雰囲気はある。そういう風情も感じる。
この作品の惹句に、「この実話は、フィクションよりも大胆だ」とある。確かにそう。クレイジーで大胆な行動、結末は分かっていながらハラハラドキドキの連続。テヘラン空港でのイラン革命防衛隊の兵士の凄まじい顔つき。特に、その目。アメリカ人ばかりじゃなく、先進国の人間にとっては、怖いなんてものじゃないだろう。凄まじい。
丁度10年前、イランへ行った。ブッシュ・ジュニアが、イラン、イラク、北朝鮮を、”悪の枢軸”と呼んだ年。
イランの人たち、穏やかであった。革命からは十数年経っている。しかし、町中のあちこちには、ホメイニの写真が掲げられていた。でも、イランの人々はごく普通の人々であった。水煙草などもすすめられた。いいーい人ばかりであった。アメリカ大使館占拠事件からは、10年以上の時が流れていた。ブッシュ・ジュニアが”悪の枢軸”と呼んではいても。
国家というもの、何かあるとシャカリキになる。そんなにシャカリキにならなくてもいいのに、ということまで。それは、そう。でも、CIAのトニー・メンデスについて、今一度。
4日前に記した、ジョン万次郎についての吉田礼三さんの言葉を思い出した。
小学生や中学生にジョン万次郎について語る吉田さん、この言葉を憶えていてほしい、と言うそうだ。それは、CourageとEffort、勇気と努力。そして後ひとつ、Advennture、冒険だ。CIAのトニー・メンデスの考察も、まさにそう。
若い人には、勇気、努力、そして、冒険。これが大切だ。
しかし、年寄りのこれには、問題ありだよ、ホント。