奥多摩歩き (2) 御岳渓谷。

<橋を渡って細い階段を下ると、もう道は林の中で、下は渓流だ。大きな岩がごろごろと点在し、その間を川が流れる。ところどころ白波が立って、ほとんど玉堂の絵を見るようだ。思わず立ち止まって渓流を眺める。カメラを持っていたらつい両手で構えて、シャッターを切ってしまう>(赤瀬川原平著『個人美術館の愉しみ』)。
上手いね。さすが芥川賞作家・赤瀬川原平。御岳渓谷を流れる渓流のよう。パチパチパチ。

赤瀬川原平のようなカメラマニアとは対極の私でも、ちっぽけなデジカメでパシャパシャとする。


ところで、赤瀬川原平のこの書『個人美術館の愉しみ』、去年の夏まで4年に亘って、東海道新幹線のグリーン車の車内誌「ひととき」に連載していたものだそうだ。
グリーン車など数える程しか乗ったことがなく、ましてや、この5〜6年は一度も乗ったことはない。この書、新書になって初めて知った。
45プラス番外編1の個人美術館が扱われている。
尾張徳川家の代々の収蔵品を公開した徳川美術館、東武の総帥・初代根津嘉一郎が豪快に買い集めた、古美術が主の根津美術館、金は出すが口は出さない、という金持ちの鑑・大原孫三郎から始まった大原美術館、といった大所から、佐倉のDIC川村記念美術館や、天竜川を遡って行った所に突如現れる砦のような秋野不矩美術館など、私の好きな美術館が幾つも出てくる。
個人美術館としては、埼玉の東松山にある「原爆の図・丸木美術館」や山形の天童にある「出羽桜美術館」など、入れてくれてもよかったのにな、と思う。
丸木美術館はよく知られているが、出羽桜美術館はさほどでは。造り酒屋の出羽桜のオーナーが集めた美術品を公開したものである。中に、斎藤真一の作品のコレクションがある。
吉原細見や越後瞽女ものの作品が多くある。一人の作家としての美術館と、コレクターとしての美術館とを、併せ持った美術館である。
でも、考えてみると、丸木美術館も出羽桜美術館も、東海道新幹線のグリーン車の車内誌に載せるには、ややそぐわないか、ということもあったろう。グリーン車だからな。
横道に逸れてしまった。御岳渓谷へ戻る。

渓谷沿いを歩いていると、ポツリポツリと釣り人が現れる。
この人は、女性の釣り師である。渓流釣り、どこか、カッコいい。

御岳渓谷、カヌー競技も行われているようだ。
正しくは何というのか知らないが、ポールが幾つも下げられている。

渓流に沿う遊歩道のすぐ横には、小さな赤い花が咲いている。
この日の案内人である青梅在住の山本宣史(7月に大規模な個展をした日本表現派の山本)は、こういう。「これは、シュウカイドウです」、と。

”シュウカイドウ”、”秋海棠”と書くそうだ。

こういう所もある。
大きな石で流れを緩やかにしている。

こういう所もあった。
夏休みも終わる頃である。流れの緩やかな所では、子供たちが水遊びに興じていた。

ここには大きな石がある。水は激しく流れる。
渓流の色は深い。

御岳渓谷、緩く、激しく、水は流れていく。
美しい。