男もいた。

きょうの読売のスポーツ面に、「味のある極限の顔」と題した、編集委員の手になる囲み記事がある。
ロンドン五輪も今日で終わちゃうがとし、味のある選手のことを記している。
レスリング女子48キロ級の小原日登美選手の、優勝を決めた直後の顔。バドミントン女子ダブルス決勝で、中国と戦った自信にあふれた日本ペア。3度目の挑戦で銀メダルに輝いた三宅宏実選手の柔らかい笑顔。その後、何より印象に残るのは、柔道57キロ級の松本薫選手の顔である、と記す。松本薫の目、”殺し屋の目”、と。
そして最後に、気がつけば、これらの選手、女子選手ばかりだ、と書いている。さらに、今日で終わりのオリンピック、最後に驚きを与えてくれるのはどの選手か、とも。
読売の編集委員が挙げている印象に残る”味のある極限の顔”、概ね私の感覚と同調する。
少し付け加えるとすれば、やはり、なでしこジャパンの澤穂希。ゴールは挙げなかったが、ここぞという場面で飛び出した使命感あふれる澤穂希の顔。あとひとつ、卓球女子団体でメダルを取った三人娘。特に、ダブルスのみにしか出なかったが、愛ちゃんと石川佳純を常にサポートしていた平野早矢香の優しいお姉さん顔。
大新聞である読売のコラムには、字数制限がある。読売の編集委員も、澤穂希や平野早矢香のことは、泣く泣く削ったのであろう。
それにしても、確かに女子選手ばかりだな、頭に浮かんでくるのは。
男はどうした、と思っていたら、今日飛び出てきた。2人も。日本には女しかいないわけじゃない。男もいるのだ、ということを実証してくれた。
今日未明のボクシングとつい先ほどのレスリングで、2人の男子選手が金メダルを取った。
一人は、ボクシング・ミドル級の村田涼太。

ボクシング・ミドル級決勝戦。相手はブラジルの選手。
村田涼太、スロースターターなんだ。
準決勝でも、1ラウンドを大きくリードされハラハラした。最後は、1ポイント差で逆転勝利した。
しかし、決勝戦は違った。1ラウンドから攻めていた。1ラウンドを取った。

パンチは村田涼太の方が重い。第2ラウンドに入ると、相手の選手は足を使ってくる。第2ラウンドは取られる。
第3ラウンド勝負となる。

村田のボディーへの重いフック、次第次第に効いてくる。相手はホールドで逃げる。村田涼太、反則ポイントを得る。

最終的なスコアカードは、こう。14−13、わずか1ポイント差の勝利。

村田涼太、ハラハラさせてくれる。
でも勝った。男・村田、頂点だ。
ボクシングの金メダル、東京オリンピックのバンタム級、桜井孝雄以来、48年ぶり。よくぞ、よくぞ、である。
ところで、このところのオリンピック、日本には女子レスラーしかいないのか、という状況にある。女子選手は、金メダルを取るのが当たり前、という状況が続く。今回のロンドン五輪もそう。レスリング女子、金メダルを3つも取った。
しかし、金メダルではないが、男子選手もコツコツとやってはいるんだ。
この選手も。

レスリング・グレコローマン60キロ級の松本隆太郎、3位決定戦に勝ち、銅メダルを取った。

フリースタイル55キロ級の湯元進一も、銅メダルを取った。
そして、先ほど、フリースタイル66キロ級の決勝戦が行われた。米満達弘が勝ち進んでいる。

その前に、3位決定戦が行われた。
キューバとアゼルバイジャンの選手との闘い、双方強い、見応えがあった。
なにしろ、双方の選手、優勝候補だったそうだから。しかし、この両者、日本の米満達弘に準決勝までに敗れた選手だという。米満達弘、強いんだな。

決勝戦の相手は、インドの選手。第1ラウンド、青の米満達弘、素早いタックルで1ポイントを奪い、取る。

第2ラウンド、米満達弘、3ポイントの大技を決める。

この技だ。
青が米満達弘である。相手を豪快に叩きつけた。

米満達弘、勝つ。
米満、日の丸を背負いリングを走る。
レスリングの男子が金メダルを取るのは、ソウル五輪以来、24年ぶり。

日本がオリンピックに参加して、今年は丁度100年になる、という。
男子の金は久しくなかったが、レスリングは日本のお家芸と言われている。米満達弘の金メダルで、レスリングの金メダル、21個目と言っていたような気がする。
米満達弘の金で、メダル総数でも史上最多となった。
出だしの柔道では、ウーンと唸ったが、思いもかけぬ競技で頑張ったたんだな。

表彰式が始まった。

青いユニフォームが優勝者・金メダルの米満達弘。その左は準優勝のインドの選手。両端は3位のカザフスタンとキューバの選手。

オリンピック、このところはアメリカと中国が金取り合戦を繰り広げている。金ばかりじゃなく、銀や銅も。それはそれでやってくれ、というのがその他の国の正直な思い。
しかし、レスリングのような格闘技では、米中でないその他の国が顔を出す。
米満達弘が金メダルを取ったレスリング・フリースタイル66キロ級の上位10人の国籍は、こうである。
上から、日本、インド、カザフスタン、キューバ、トルコ、アゼルバイジャン、カナダ、アルメニア、ウズベキスタン、ベラルーシの10か国。第三世界の国、旧ソ連の国が目につく。アメリカと中国が入っていないというところが、何とも言えずいい。
そう思っていたら、この後のグレコローマン96キロ級で、アメリカの選手が勝ってしまった。レスリングぐらい、第三世界の国々に任せたらどうか、と理不尽なことを考える。
翻って考える。日本は、どうなんだ、と。
第三世界の国ではない。しかし、先進国からは、次第に落ちこぼれそうな気配もある。どうなんだ、日本。悩ましい状況にあることは、確か。
それでも、しかし、日本には女しかいないのか、と思っていたら、男もいた。オリンピック最終日、そういうことが解った日であった。