今年の桜 パリの桜。

「花は、盛りの時だけが美しいものではない。始まりや終わりの時にこそ、趣きがあるのだ」、と兼好法師は言う。
たしかに、そういうこともなくはない。しかし、花の盛りは、それはそれ。盛りの花は、やはり、ではある。
パリの町では、時折り桜を見かける。半月ほど前には盛りを迎えていた。パリの桜、満開であった。

ノートルダム寺院の裏に小さな公園がある。桜も植えられている。品種は何かは解からないが、パリの桜、八重桜である。

日本の染井吉野と異なり、パリの八重桜、ぽってりというか、ぼってりというか、妖艶な感が強い。
伝説の世界三大美人(あくまでも、日本で言われているものですよ)に例えれば、小野小町にはほど遠く、クレオパトラか、杉田久女が詠うこの美女に近い。
     風に落つ楊貴妃桜房のまま     杉田久女

場末の何でもない道に、並木というには少し寂しいが、4〜5本の桜が植わっている所があった。半月近く前、ここの桜もやはり、満開であった。

八重桜、牡丹桜とも称される。その姿、まさにそう。
     ひとひらの雲ゆき散れり八重桜     三橋鷹女

セーヌ左岸、オーステルリッツ駅に近い公園に、この桜木はある。
枝を横に大きく広げている。雄大で堂々たる姿である。パリのこの桜、七堂伽藍で覆われた奈良の都を想わせる。その存在感、芭蕉のこの句に対峙できる。
     奈良七重七堂伽藍八重ざくら     芭蕉
今年の桜、これにする。