アートな建物。

今年初め、MOT・東京都現代美術館へ行ったのは、これを見るためであった。

「ゼロ年代のベルリン わたしたちに許された特別な場所の現在」展。
なんだかややこしいタイトルがついているが、21世紀に入ってからのベルリンのアート、というものであろう、と考えた。
ベルリンは、少し変わっている。ヨーロッパの他の国の首都、パリやロンドンとは異なる。南のローマや北のモスクワとは、大いに異なる。日本と違い、ナチの戦争犯罪を徹底的に追及した。半端なものじゃない。しかし、また、ネオナチの動きはある。共に、ドイツ、ベルリンなんだ。
パリやロンドンに較べると猥雑。ローマやモスクワよりも、はるかにファナティック。重厚であることは確かであるが、ヘヴィって感じが強い町。ヘヴィなアートに違いない。
4日に行った時には、MOT閉まっていた。おかげで、スカイツリーを見ることができた。それまでスカイツリーに行くことなど、さほど思ってもいなかった。しかし、その後も何度か行き、今や、他人を案内できるくらいには、詳しくなった。
スカイツリーはさておき、「ゼロ年代のベルリン」は、どうか。
2日後、また観に行った。映像作品が多かった。世界のあちこちからベルリンへ来た作家たち、12か国、18人の作品。アジアからも、日本、韓国、中国、マレーシアその他、さまざまな作家がベルリンへ行っている。
ヘヴィ、ハードエッジ、エッジの効いた作品が多い。猥雑でファナティックなベルリンだ。
ところで、MOT・東京都現代美術館のいい所は、2つか3つの企画展を並行して行なっていることだ。会期末が迫っていたが、今年初めには、この展覧会もやっていた。

「建築、アートがつくりだす新しい環境 これからの”感じ”」展。
<建築とアートが提案するPOST2011の環境、ことばでは説明できない、「これからの”感じ”」 未知なる展覧会体験>、というものだ。
今、世界の建築界をリードする、妹島和世と西沢立衛のユニット・SANAAと、MOTの共同企画。豪勢なものだ。
カラフルなオブジェの模型やインスタレーション、映像その他、さまざまな建築家やアーティストの作品が並ぶ。
ひとつだけ、撮影可能な作品があった。


バーレーン王国文化省の「Reclaim(リクレイム)」。
ペルシャ湾岸の島国・バーレーン王国の文化省は、文化と観光行政を担当する政府機関である。その政府機関、2010年のヴェネツィア・ビエンナーレにこれを出品した。各国館の金獅子賞を受賞したそうだ。この小屋は、その作品を、バーレーンから移設したものだそうだ。
木を打ちつけてあるだけの小屋である。
海岸線が埋め立てられていくにしたがって、漁師小屋も変わっていく。バーレーンの漁師にとって、バーレーンの人々にとって、海がどのようなものであったのか、問いかけている。
リクレイム、何て言えばいいのだろう。”埋め立て”と言えばそうであるが、”まあ、”再生”か。


建物の中。
中央部の赤と白のギザギザ模様は、バーレーンの国章。国旗も、赤と白のギザギザ模様。
ヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を取ったという建物の中。中央部に赤と白のバーレーンの国章がある。


”素人が45キロもの不思議な魚を釣った”、という新聞記事の周りには、ペルシャ湾に浮かぶ舟。


バーレーン王国文化省のこの作品、海辺の小屋ばかりじゃなく、海が何であるかを語る人々へのインタヴュー映像、さらに、それを記録した小冊子で構成されている。
このモニターに映っている男は、「昔は、これぐらいのエビを捕るのに使った・・・・・」、と話す。

バーレーンから持ってきた建物、何でもないようでいて、そうでもない。
向こうに見えるこのモニターでは、「市民と政府が見つめ合えば・・・・・」、なんてことを言っている。
それよりも、左下。
印刷物がある。これも、この作品の構成物だ。

こういうもの。
赤と白のギザギザ、バーレーンの象徴だ。

その印刷物を手に取り、めくる。
このような建物も。赤と白のギザギザのバーレーンの国旗がはためいている。

これも。
Reclaim(リクレイム)だ。

ペルシャ湾沿岸の漁師小屋の天井。
ただ木を打ちつけてあるだけ、という模様。

このモニターに出てきた女性は、「私にとっては、海は、打ち解けることができる友だちだ」、と語っている。
そうだよな、おそらく、こころよい。
ここで終わろうか、と思っていたが、実は、そうはいかないことがある。
ヴィム・ヴェンダースの作品があるのだ。
ヴィム・ヴェンダース、3D映像で、SANAAを追っている。
SANAAのスイス、ローザンヌの”ロレックス・ラーニングセンター”の作品を記録している。
この建物、不思議な建物だ。
フワッとしている。どうして立っていられるのか、とも思う。潰れないのか、とも考えるが、その心配はないのであろう。ヒラ、ヒラッとして、気持のいい建物だ。
なんだか見たような人物だな、と思ったら、オバサンは妹島和世で男は西沢立衛であった。二人して、電動立ち乗り二輪車・セグウェイでスイスイと走っている。自らが設計したローザンヌのロレックス・ラーニングセンターの中を。
それよりも、ヴィム・ヴェンダースの映像の中に、バルチュスの奥さんである節子さんが出てきた。もちろん、和服姿。70を越えているはずだが、とてもふくよかなお姿であった。
アートな建物、さまざまなものをもたらす。