マネーボール。

このところトンと聞かないが、”清武の乱”はどうなったのかな。読売巨人軍のゼネラルマネージャー・清武英利が、読売グループのドン・ナベツネに咬みついた事件、訴訟合戦になったその後は。
”ナベツネへの乱”、大いに世間を楽しませてくれた。翌日の朝刊、天と地がひっくり返ったような扱いのスポーツ紙は措くとして、朝日と毎日、それに日経はスポーツ面と社会面で大きく、産経にいたっては一面でも扱っていた。子会社役員の親会社ドンへの反乱、ましてや、対象がナベツネとなれば、これは大きな社会問題。当然だ。
それにしても、読売は情けない対応をとった。スポーツ面でのベタ記事のみ。発行部数1000万の読者の多くは泣いたろう。ベタ記事にしかできぬ大読売の記者の胸中を慮って。
それはともかく、それから数日後の朝日に、日を挟み、清武英利とナベツネへのインタビューが掲載された。それぞれ1ページすべてをつかう記事が。勝負にならない。ナベツネの貫録勝ち。
清武の言う”ナベツネは、企業ガバナンス、コンプライアンスに反する”、なんて論理は通らないよ。ナベツネは、ヤンキースのドン・スタインブレナーと同じなんだから。初めっからコンプライアンスなんてものの埒外。そんなことも解からずに巨人軍のGMを務めていた清武が悪い。
これに対し、ナベツネの言う”清武は、取締役としての忠実義務違反だ”、という主張には妥当性がある。取締役が企業秘密を暴露し、企業に損害を与えることは、明らかに忠実義務に反する。
清武と読売及びナベツネの訴訟合戦、清武に分はないだろう。
そのようなことがあった頃、この映画が公開された。

メジャーリーグ、オークランド・アスレティックスのGM、ビリー・ビーンの実話に基づくお話だ。いや、面白い。
ビリー・ビーン、高校時代野球選手として期待され、メジャーの世界に入る。しかし、期待はずれに終わる。で、選手からフロントへ転身する。アスレティックスのGMになる。しかし、主力選手が次々と抜けた後の補充ができない。予算がないんだ。
アスレティックスの選手の年俸総額は、ヤンキースの1/3、という貧乏球団だったんだ。このようなこと、日本の球界でも見られること。巨人と先般身売りした横浜の間も、1/3かどうかは知らないが、似たようなものであろう。
それはともあれ、貧乏球団・アスレティックスのGM・ビリー・ビーン、どうするか。イェール大学を出たやけに数字に強い若者に出会う。打率のいい打者やホームランバッターは、当然年俸が高い。反対に、打率は低いがフォアボールをよく選ぶ選手、いわば出塁率のいい選手がいる。このような選手の年俸は安い。このような選手を集める。
打者はどう、投手はどう、と今までの常識にとらわれない補強をしていく。貧乏球団らしく、金をかけずに。コンピューターを使った「マネーボール理論」で。初めの内はバカにされるが、それが成功するんだ。

監督は、ベネット・ミラー。主役のビリー・ビーン役は、ブラッド・ピット。ピタリ、いい。ブラッド・ピット、アメリカの俳優の中では、今、一番輝いているのじゃないか。
メジャーリーグの選手たちのありさま、別れた女房との間の子供とのこと、その他興味深い映像はあるが、それらは省く。中でひとつだけ。
コストをかけずに強い球団を作ったビリー・ビーン、ある時、ボストン・レッドソックスのオーナーから食事に誘われる。コーヒーを飲みながら、レッドソックスのオーナー、テーブルの上に置いてある封筒を開けてみろ、と言う。ビリー・ビーンが封を切り中を見ると、数字が書かれている。
レッドソックスのオーナー、この年俸でどうだ、と話す。GMとしては、それまでに例のない驚くべき年俸。ビリー・ビーン、結局この申し出を断るんだ。何故か。
若い頃、大学進学を考えていたビリー・ビーン、巨額の契約金につられメジャーに入る。大学進学は諦め。しかし、選手としては成功しなかった。また、金に目がくらんじゃいけない、ビリー・ビーン、踏みとどまることを選ぶ。
で、ビリー・ビーン、今でもオークランド・アスレティックスのGMをやっている。

ビリー・ビーン、異端児ではあるのだろう。面白い男だ。
ボスに咬みついた清武英利も、異端児といえば異端児であるが、GMとしては成功しなかった。それより、清武が解任された後、読売巨人軍のGMとなった男は、正しい読売巨人軍のGMとしての道を踏襲している。
横浜をFAとなった強打者・村田修一を取ったばかりか、ソフトバンクからは沢村賞の杉内俊哉、さらには、昨年のパリーグ最多勝のホールトンまでも取ってしまった。いずれも高額年俸の選手ばかり。ビリー・ビーンとは、全く逆方向の補強である。しかし、これが巨人伝統の補強法。
今年のセリーグの優勝チームは、これで決まり。監督などいらない。巨人の新GM、アスレティックスのGM・ビリー・ビーンとは全く異なるが、十分働いた。