ゴーストライター。

フェリーが船着き場に着く。すべての車が降りても、動かない車がある。中を覗くと、ドライバーの姿はない。
ロマン・ポランスキーの『ゴーストライター』、こうして始まる。
何かありそうだな、いや、あったな、と思わせる。ポランスキー、期待を裏切らない。

英国の前首相・アダム・ラングの自叙伝を書くため、ゴーストライターが雇われる。報酬も悪くはない。アメリカの北東部、海に面した町にあるラングの別荘へ行く。ニューイングランドであろう陰鬱な海辺の町へ。
彼・ゴーストには、前任者がいた。フェリーの中で姿を消した男だ。アダム・ラングの補佐官をしていた男。
前任のゴーストライターの書いた原稿を見せられるが、もちろん、持ち出し厳禁。短期日で、纏めろ、と。しかし、前任者の原稿、読めば読むほど、なにやら謎めいている。
別荘の中は、ラングの筆頭秘書の女が取り仕切っている。ラングの妻もいる。しかし、ラングの行動、そのすべてを仕切っているのは、筆頭秘書の女。この二人の関係も、スリリング。
ゴーストライター・”ゴースト”、だんだんとアダム・ラングの謎に嵌まっていく。前任者のゴーストが、何故消されたのか、というところまで。CIAも絡んでくる。
冥い海、陰鬱な雨空、道具立ては揃っている。その中で、ゴーストが動く。自転車で、車で。謎を追って。まさに完璧。ポスターにある通り、とてもサスペンスフル。
ポランスキー、これぞ映画、というとても面白い映像を作りあげた。

英国の前首相・アダム・ラング、国際刑事裁判所から告訴される。アダム・ラング、もちろん、英国の前首相・トニー・ブレアを暗示している。ブッシュジュニアの尻馬に乗り、イラクやアフガンでのテロ戦争へ突き進んだトニー・ブレアを。
アダム・ラングが移動に使っているプライベートジェットは、なにやら聞いたことがあるような名前。イラクで私腹を肥やした、時の副大統領・チェイニーの関連会社・ハリバートンを思わせる名前の企業から提供されている。ロマン・ポランスキー、洒落たことをする。
最後の場面も興味深い。ああ、そうなのか、やはり、と思わせる映像。
これぞ世界の巨匠、という技を見せつける作品だ。