アジア人。

練習を見ているようだった。
パス回しや、センタリングや、シュートの。
サッカーW杯、アジア地区3次予選、タジキスタン戦。
相手が引いているにもかかわらず、タジクゴール前で面白いようにパスが通る。アルゼンチンでもこうはいくまい、と思われるほど。面白い、という言葉を使いたくなくなるほど、サイドからのセンタリングが上がる。当然、シュートも、雨霰。シュート数、前半だけで19本。ゴールネットを揺らしたのが、4本だけとは思われない。
アレッ、今日は、川島は出てないのか、と思ったほど。川島、前半はまったくボールに触れていなかった。タジクのシュートは、0。川島が触れようがない。それ以前に、日本のゴール前にボールが来ない。こういうテストマッチもあるんだな。
後半の展開も同様だった。結局、前後半合わせ、日本のシュート数は、39本。8ゴール。タジキスタン、後半もシュートは打てなかった。ゴール前のフリーキックが一度、コーナーキックが一度あったが。その時のみ、川島永嗣の姿が映った。
先発のハーフナー・マイクが、長身を利した頭で2発。岡崎慎司が、2発。ブンデスリーガで大活躍の香川真司が、2発。”泣くな駒野よ、駒野よ泣くな”の駒野友一も、代表64試合目で初ゴールを挙げた。本田圭佑の穴を埋めた中村憲剛も、蹴りこんだ。
後半開始直後、2点目を挙げたハーフナーに変わり、李忠成が出てきた。李、何度もシュートを放った。だが、ゴールネットを揺らすには至らなかった。
しかし、李忠成、最後までゴールを狙っていた。フォワードの座を争うハーフナーが、2本も決めている。”オレも決めなきゃ”の思い、李の体内に煮えたぎっているのが、見ていてもよく解かる。ガッツのある男である。
ハーフナー・マイクは、オランダ系日本人、李忠成は、韓国系日本人である。ザックジャパンでのこの二人のポジション争い、今後楽しみだ。競えば競うほど、競わせれば競わせるほど、ザックジャパンは強くなる。ザッケローニにとっても、腕の見せどころだ。
長友佑都も、久しぶりに見た。相変わらず、後ろから駈けあがり、シュートも狙っていた。残念ながら決まらなかったが、それはいい。長友は、元気なだけで、それでいい。
それよりも、私は、本田圭佑の代わりに、トップ下に入った中村憲剛のことが、気にかかる。
ベテラン中村憲剛、今日の大勝の功労者だ。ゴールも決めた。本田圭佑の怪我が癒えた時、ザッケローニはどうするか。ザックジャパンのトップ下の先発は、本田か憲剛か。これも見もの。楽しみだ。
それはそれとして、タジキスタンの監督は、謙虚な男だ。ゲーム後、こういうことを言っている。
「今日の試合、日本がほぼベストメンバーで戦ってくれたことに感謝している。私たちは、勉強をしにきた身分だ。苦い経験ではあるが、私も選手も、今日の結果を受けとめて将来に活かしていきたい」、と。
タジキスタン、旧ソ連の崩壊で生まれた国。中央アジアの小国だ。これからの国だ。私は、このタジキスタンの監督の言葉に、日露戦争後の若い国のことを思い出した。
極東の小国・日本が、大国・ロシアを破った。アジアの国々の指導者、また、その後の世代の若者たち、いや、アジアばかりでなく、トルコのケマル・アタチュルクも、エジプトのガマール・ナセルも、日本を先達とした。
状況は異なるが、今、タジキスタンの監督は、”日本に学ぶ”、と言っている。ありがたい。嬉しい。サッカーのテストマッチに勝った以上に嬉しい。
タジクの監督、その顔つきは、モンゴリアン系とは少し異なる。しかし、彼もアジア人、との思い、強く感じた。
今日、大震災から7か月。これも忘れちゃいけない。