久しぶりに、蚊に喰われた。

私の住むアパートの敷地内、暫く前からサルスベリの紅い花が咲いている。それは解かっていた。あちこちに細いサルスベリが多く植わっているので。
しかし、みな小さいものばかり。せいぜい3〜4メートル。花はつけているのだが。
近場の公園に、大きなサルスベリがある。何日か前から、アイツを見に行ってやろう、と思っていた。あのデカいヤツなら、盛大に花をつけているに違いない、と考えていた。
デカいサルスベリがある公園、歩いて10分足らずのところにある。しかし、今月は散歩になど出なかったので、その内に、と思っていた。それに、サルスベリはまだまだ咲いているし、とも思っていたし。
今日は、曇天。外へ出るには、もってこい。夕刻、久しぶりに散歩にいった。デカいサルスベリのある公園まで。

公園までの民家の庭にも、サルスベリは案外ある。みな花をつけている。

紅というより、淡いピンクの花をつけているものもある。

ところが、公園に着き、デカいサルスベリの木を見ると、赤っぽい色は、まったく見えない。どうしたことだ。
このサルスベリ、10メートルは軽く超す大木だ。その樹勢一面、赤っぽく染まっているに違いない、と思っていたのだが、そのような気配はまるでない。
近寄っていっても、花らしきものは何もない。見えない。
よく見ると、あちこちに茶色っぽいものが見てとれる。花の咲いた後のような。

このように。
まさか、蕾ではあるまい。ましてや、一足飛びに、実でもあるまい。どう考えても、咲いた後。もう咲き終わっちゃったのか。
サルスベリ、百日紅だ。夏の間は、ずっと咲いているものだとばかり思っていた。しかし、どうも、そうではないらしい。
そんなことを考えていると、手のひらがおかしいことに気がついた。痒くなった。蚊に喰われた。3か所も4か所も。早々に退散した。
久しく、蚊という昆虫がいること、忘れていた。久しぶりで、蚊に喰われた。
     道化師に晩年長し百日紅     仁平勝
晩年が長い時代となった。私の周りにも、100歳近い人が何人かいる。みな普通の人だ。だが、世の辛酸を舐め尽した道化師にとっては、その晩年はより長い、ということか。
そう思ったが、おそらく、違う。仁平勝の句、平らかでないところがある。
長寿の日本人、また、日本社会、いや、日本国そのものを道化師に擬えているのかもしれない。哀しい面影の道化師に。