涙。

上海での世界水泳選手権、終盤に入っている。競泳のみ、すべてではないが見ている。
松田丈志が、200バタで銀メダルをとった。
アテネで6冠、北京で8冠のフェルプスを、あわやというところまで追いつめた。
怪物・フェルプス、今回はどうも本調子ではないようだ。これまで、200フリー、200個人メドレーでも敗れている。調子が今ひとつというよりは、力が落ちている、ということかもしれない。いかなる怪物も、そういう時がくる。
それにしても、松田丈志は凄かった。途中まで、勝てる、と思った。さすがフェルプスではあるが、松田丈志は確実に強くなっている。松田が子供のころから指導しているという久世コーチ、あのオバサンコーチの姿も、何度も画面に映し出された。オバサンコーチと弟子、いわば手作りの二人三脚、ロンドンで結実させてもらいたい。ロンドンでは、真ん中に。
入江陵介が、100背泳ぎで銅となった。
水泳選手とは思えない細っこい身体、話す声も甲高くて、どうしてお前は強いんだ、と思ってしまう選手であるが、速い。21歳とまだ若い。まだまだ伸びる。ひょっとすると、来年のロンドン、入江陵介が、日ノ丸ばかりじゃなく、君が代を聴かせてくれるかもしれない。
今日は、女子50メートル背泳ぎで、寺川綾が、銀メダルをとった。
高校のころから世界デビューを果たしていた寺川綾、苦節10年、五輪、世界選手権を通じ初めてのメダルとなった。
一昨日の100メートルでは、最後までデッドヒートを演じたが、タッチの差でメダルに届かなかった。今日のレースも、50メートルだから、まさに横一線のデッドヒート。一瞬のタッチの差、と言っていい。
一昨日のレース後には、悔し涙を流していたが、今日のレース後は、嬉し涙に変わっていた。


涙というもの、バカ笑いをした時に出ることもある。しかし、やはり何と言っても、涙に相応しい状況は、悲しい時、嬉しい時、悔しい時、この三つではないか。
今日の寺川綾、嬉しさのあまりの涙。

拭っても涙。
何しろ、10年越しの悲願が叶ったのだから。

しきりに目のあたりに手がいくが、寺川綾も26歳。来年のロンドン五輪が、競技人生、締めのレースとなろう。その場でも、涙を流してもらいたい。
それはそれとして、日本のエースは、北島康介。このこと、変わっていない。ここ10年来、変わらない。
それでいいのか、いつまでも北島頼みで、とは思うが、そうであるのだから仕方がない。
北島康介、100メートルでは惨敗を喫した。3位にも届かなかった。「ダーレ・オーエンは、強い」なんて、聞きたくもない言葉を吐いていた。しかし、今日の北島康介、200メートル準決勝では、全体1位のタイムで決勝へ進んだ。
北島康介、28歳になる。この秋には、29歳に。確実にピークは過ぎている。明日の決勝、北島が勝つ確率、5割程度あるかもしれない。
しかし、仮に北島康介が勝ったとしても、北島は、涙を流さないだろう。北島の涙は、ロンドンまでとっておくに違いない。北島本人は、涙したいに違いないのだが。”オレも、よくぞ、ここまで持ち直したな”、と思って。
アテネ、北京と2冠を続けた北島康介、来年のロンドンを待たずとも、よくぞ持ち直した。明日の決勝、北島が勝てば、彼は流さずとも、私は、涙したい、と思っている。