究極の三角と六角。

50年来の友・杉浦良允の個展が始まった。
杉浦良允、学生時代、シェル美術賞の佳作賞を取っている。当時、何度かの個展を開いているが、卒業後はサラリーマンとなった。40年近く仕事をし、リタイアした後、また、個展を開くようになった。1〜2年の間隔で。ただ今回は、少し間があき2年半ぶりの個展となる。
今日は、オープニングの日。今回の会場は、銀座、和光裏のギャラリー・オカベ。

オープニング・パーティーは、5時からだが、4時前から古い仲間ポツポツ集まってくる。

杉浦、平面作品を描いていたが、5〜6年前から立体作品も手掛けるようになった。今回の展示も、平面、立体、共に発表している。

この壁面も。

別の壁面。

杉浦、キャンバスにアクリルで描く。その色が好きだ、という男もいる。たしかに、杉浦の色づかい、美しい。
しかし・・・・・

杉浦といえば、その形だ。三角だ。そして、六角だ。
杉浦、若い時から三角を追い求めてきた。その倍数である六角も。トライアングルとヘキサゴン。
三角には、角が3つあり、辺も3つある。六角には、角も辺も、その倍ある。
ンンッ、何だコリャ。当たり前のことを打ってるのじゃないかな、私は。オープニングで飲んだ後、古い仲間たちと、また二次会で飲んだので、頭が働かないぞ。
三角ではあるが、辺が直線でなく、曲線になっていた時期もあった。三角の中に、別の形を描いていた時もあった。いずれも三角を突きつめていくうちにそうなったものだろう。六角も同じだ。杉浦の美の規範、三角の中に六角があり、六角の中に三角があるのだから。


三角が3つ、踊ってる。

これは大きな作品。共に、100号。杉浦、三角と六角を追いつめる。
と、杉浦の描く三角と六角、増殖していく。増殖儀礼を行なうのだ。杉浦の画面の中で。三角と六角という形そのものが、増殖因子を持っているのだな、きっと。杉浦の三角や六角は。内にも外にも。
それにしても、色づかいも素晴らしい。平面なのに立体にも見える。角のある三角と六角で構成されているのに、その中心部、球体にも感じられる。球体には、角も辺もない。どういうことだ。ボーとした頭には解からない。ともかく、美しい、ということだけしか。

壁面に取りつけられた立体作品。やはり、基本は、六角。木を組んだ上に、アクリル。
上方からの光が作る影も、作品だ。

これは、床に置かれた立体作品。やはり、木にアクリル。
仲間うちでの二次会の席で、二科の久保寺洋子、「ネエ、ジェッソは使わないの。ジェッソは便利よ」、と言っていた。ジェッソ、下塗り、目つぶしに使う塗料だそうだ。ジェッソなんて、私は、初めて聞いた。杉浦は、もちろん、知っていた。あぶくのようになるし、使い難い、と。だから、使わない、と。
ジェッソかジェットか知らないが、この白、十分に美しい。
それにしても、酔ってボーとした頭には、碌な言葉も浮かんでこない。杉浦良允の作品を評するに。
仕方ない。専門家に助っ人を頼もう。優秀な美術評論家の早見暁にお出ましいただこう。杉浦の前回の個展の折り、早見暁、杉浦の作品をこう評している。

タイトルは、「差異と関係が空間のなかで息づく」。
何やら解かり難いタイトルだが、専門家の頭の中、私ごときとは異次元のもの。解かり難きを解かり、ということで、早見の批評文、どうにか理解できる箇所のみを抜き書きする。
<六角形が面に分割され、各面はストライプの繰り返しで分割されて差異化される。「図」と「地」の関係ができる。そこに進出と後退、凹凸、立体と平面などが重なり合う空間的イリュージョンが生まれている。・・・・・立体ではストライプの実際の空間とイリュージョンの空間が混沌としている>、とし、その少し後、こう記す。
<分割と繰り返し、色彩の差異などによって20世紀美術の主題だった「地/図」関係が再検討されている>、と早見は、評す。
「図」と「地」の関係、解かり難いといえば解かり難いが、解かるといえば解かる。そういうものだ。この作品の形や色づかいを見れば、そうだよ、やはり。


これも、「図」と「地」の関係だろう。

これも。
しかし、正直に言えば、私には、増殖因子を持った三角と六角が、次々に増殖していく増殖儀礼のように思えるのだが。

実は、今回の杉浦展で、まず初めに目についたのは、これだった。
初め、鉛筆で描いたデッサンかな、と思った。しかし、違った。写真だった。
高さ1.5メートルくらいの立体作品を作ったそうだ。吊り下げることを考えて。しかし、フラフラして曲がってしまう。で、展示は諦め、写真に撮った、と杉浦は言う。
小さな写真6葉、額装してあったが、面白いものであった。なお、この6葉の写真、すべて同じ作品だとのこと。角度を変えて撮ったもの、とのことだった。
面白いものだった。もちろん、そのベースにあるのは、増殖する三角と六角。
三角と六角を究める杉浦の今後の美の展開、この6葉の写真に隠されているような思いがする。