ギューちゃん(続き)。

ギューちゃん、生れは東京のど真ん中。麹町区二番町。
ご町内には、蜂ブドー酒社長の大邸宅、長唄や琴の家元、ブラジル公使館、イギリス大使館、ベルギー大使館、さらには、泉鏡花、佐藤春夫、有島生馬などのお屋敷、その他書いていくときりがない、という東京第一の高級文化住宅地の中のきたない長屋で生れた。小学校は、当然、名門・番町小学校。
芸大では、林武教室の1期生。山口薫にも習っている。ただし、中退。卒業制作の作品を見た林武から、即時退校を命じられた。単位不足ではあったそうだが。
これらのこと、ギューちゃん・篠原有司男の著・『前衛の道』(1968年、美術出版社刊)に、ギューちゃん自身が書いていることだ。
バーミリオン一色で刷られたケース。そこに開けられた逆涙粒型の穴から、表紙のステレオ印刷紙が見える。赤く見えたり、青く見えたり、黄色に見えたり、という玉虫色の表紙。中も半分は、ギューちゃんの絵と写真。使われている紙の紙質もさまざま。刷り色も多くの色が使われている。何カ所か、観音開きのページもある。怪書にして名著。快書でもある。
何より、中身が面白い。昨日、久しぶりに引き出して、端から端まで読んでみた。
ロカビリー画家、ネオダダ、ボクシングペインティング、イミテーションアート、ハプニング、ポップアート、アクションペインティング、・・・・・、これらの言葉が、ギューちゃんを表わす語の頭に付けられた。この書には、ギューちゃんの20代から30代半ば過ぎまでの軌跡が詰まっている。この書、5年ほど前、そっくりそのまま復刻されたようだが、さもありなん、だ。
なお、ついでに大事なことを記しておく。
今、東京都現代美術館に収蔵されている、その当時のギューちゃんの油彩画、「思考するマルセル・デュシャン」は、我国ポップアートを代表する傑作のひとつである。私は、そう思っている。都の現代美術館へ行った折り、この作品が掛けられている時には、何やら嬉しくなる。
3年半前、豊田市美術館での、ギューちゃんの展覧会の作品へ戻る。
立体作品も凄いが、平面の絵も、それにも増して凄いんだ。平面の作品もさまざま出ていたが、何と言っても、「ギリシャ神話ファンタジー」というタイトルの絵には圧倒される。

「ギリシャ神話ファンタジー」、3点で構成されている。
「崩れはじめたパルテノン神殿を持ち上げるヘラクレス」、「獅子門爆発」、「メデューサの出現に発掘現場は大騒ぎ!」、と名づけられた3点の絵で。キャンヴァスに、アクリル絵の具で描いている。

それぞれの絵、天地は、同じく7.65メートル。左右は、16.95メートル、14.37メートル、15.78メートル。合計、47メートルに及ぶ大画面。大壁画だ。驚くのは、その大きさばかりではない。

ミケランジェロだ。
ギューちゃん、21世紀のミケランジェロになった。
システィーナ礼拝堂の天井画、また、「最後の審判」の祭壇画、それと同じだ。私は、バチカンを思い出し、ギューちゃんをミケランジェロに重ね合わせた。

そんなこと、誰が思うか、という声もあろう。ギューちゃんを知らぬ世の輩には。
そんなこと知ったことじゃない。ギューちゃんは、21世紀のミケランジェロだ。

これはどの場面だったか。
「崩れはじめたパルテノン神殿を持ち上げるヘラクレス」だったか、「獅子門爆発」だったか。どちらでもいい。

ギューちゃん、この作品を描くに際し、このような解説スケッチを残している。その時の図録を複写した。
これは、「獅子門爆発」の解説スケッチ。

これは、「崩れはじめたパルテノン神殿を持ち上げるヘラクレス」の解説スケッチ。

「メデューサの出現に発掘現場は大騒ぎ!」の解説スケッチ。
手持ちで撮っているので、ピントも悪く、歪んでもいるが、いずれも、何とか読むことはできるだろう。

ギューちゃん、ニューヨーク、ブルックリンのアトリエで、こうして描いていたようだ。脚立に乗って。
右のほうの写真では、ゴンドラのようなものに乗って描いているようだ。システィーナ礼拝堂の天井画を描くミケランジェロと同じじゃないか。この一事を持ってしても、ギューちゃん、21世紀のミケランジェロ説、成り立つのじゃないか。