修羅。

春、始まりの季節。
桜が咲けば、一年坊主のランドセル。明るい希望を思わせる。
しかし、春はまた、不気味な季節でもあり、残酷な季節でもある。このこと、今に始まったことじゃない。

今ごろの桜木、一日見ぬうちに五分を通り越し、六、七分咲きとなっている。

多くの詩を残した宮沢賢治、生前唯一上梓されたのは、『心象スツケチ 春と修羅』。大正13年、關根書店から刊行されている。
昭和53年、日本近代文学館から復刻された同書から。
復刻版故、”宮沢”という朱の検印も、大正十三年四月二十日という発行日も、弐圓四拾銭という定價も、初版の奥付けそっくりそのまま復刻されている。
大正11、2年の宮沢賢治の心象スケッチ、<・・・・・ これらは二十二箇月の 過去とかんずる方角から 紙と鑛質インクをつらね ・・・・・ かげとひかりのひとくさりづつ そのとほりの心象スケッチです ・・・・・>、と「序」にある。
書名ともなっている「春と修羅」から、何行か。
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     いかりのにがさまた青さ
     四月の気層のひかりの底を
     唾し はぎしりゆききする
     おれはひとりの修羅なのだ
     ・・・・・
     ・・・・・
     ・・・・・
     まことのことばはうしなわれ
     雲はちぎれてそらをとぶ
     ああかがやきの四月の底を
     はぎしり燃えてゆききする
     おれはひとりの修羅なのだ
     ・・・・・
     ・・・・・
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     (まことのことばはここになく
     修羅のなみだはつちにふる)
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修羅は、阿修羅。
興福寺の阿修羅は美少年面だが、本来の阿修羅、古代インドの戦いの神。