カズ。

ゲームの前、長友佑都は、こう言っている。

長友らしいな。
そして、カズは、こう言っている。

これも、カズらしい。
それにしても、日本代表とJリーグ選抜とのチャリティーゲーム、震災後初の明るいイベントではなかったか。
福島第一原発で命を張っている男たちとは別の形で、日本を救う役目を担っている男たちがいること、多くの人が感じたのじゃないか。
今夜のゲーム、避難所にいる多くの人たちは、見ることができなかったろう。しかし、大阪、長居スタジアムの4万余の観客ばかりじゃなく、テレビを通して見た多くの日本人、このゲームから、被災者の方々への思いをより強くし、より支援の度を強めること、感じたに違いない。
今日のゲーム、多くの人は、両軍を共に応援していたであろう。おそらく、日本代表チームが勝つだろうが、Jリーグ選抜も一矢を報いてくれ、と思っていたに違いない。確立は非常に低いが、でき得れば、その一矢は、Jリーグ草創期の立役者・カズのゴールで、と。
ところが、そうなった。
多くの日本人、力づけられた。被災者の方々への思い、より強くなった。私は、そう思う。

入場前の、日本代表主将・長谷部誠と、向うの長髪は、Jリーグ選抜主将・中澤祐二。
長谷部と中澤、ゲームの前に挨拶した。「乗り越えられないことなど決してない。力をひとつに」、と。

Jリーグ選抜には、小野がいる、カズがいる、俊輔もいる。みな、かってのスター選手だ。

ゲーム前、両軍の先発選手、審判が輪になった。

そして、黙祷。

日本代表の先発メンバー。
前線には、本田圭佑や岡崎慎司がいる。中盤には、長谷部誠、遠藤保仁、長友佑都もいる。キーパーは、川島永嗣。1年前からお馴染みになったメンバーだ。

Jリーグ選抜の先発。
大久保がいる、小野がいる、小笠原がいる。後方には、中澤と闘莉王、さらに、あの”泣くな駒野、駒野よ泣くな”、の駒野もいる。キーパーは、楢崎だ。1年前まで、日本代表メンバーだった男たちだ。

前半14分、日本代表、ゴール前で、フリーキックを得る。
本田と遠藤のこのツーショット、日本代表の試合ではお馴染みになったもの。どちらが蹴るか。
遠藤が蹴った。練達の技、ゴールを決めた。日本代表、先制した。
その5分後、日本代表、本田のスルーパスから、岡崎がゴールを決めた。
昨年のワールドカップ、対デンマーク戦を思い出した。日本中が歓喜に沸いた、あのデンマーク戦を。
しかし、こうなれば、Jリーグ選抜に一矢を報いてもらい、と思ったのは、私ひとりではなかったろう。

ゲームの途中で、東北を震源とする地震があった。震度4。私のところでも揺れた。

後半、両軍共、メンバーが大幅に入れ替わった。
日本代表は8人が交代した。

Jリーグ選抜は、4人。
キーパーは、川口に変わった。中澤が退き、キャプテンマークは、俊輔が巻いた。

後半17分、Jリーグ選抜監督・ストイコビッチ、ついに三浦和良・カズを投入した。
ストイコビッチは、セルビア人だ。セルビアは、ユーゴ崩壊後、さまざま問題があった国である。NATOによる大規模な空爆も受けている。そうであるからこそ、国家危急の時の対応、頭の中にあったのだろう。カズの投入期もそのひとつだ。私は、そう思う。
カズがJリーグ選抜に選ばれた時、私は、嬉しかった。44歳のカズ、象徴的な意味合いで選ばれたこと、誰しもがそう思っている。しかし、カズを選ぶこと自体、見識がなければできないこと。このことも、国民誰しもが思っている。

そのカズ、ゴールを決めた。筋書きを書いても、こうはいかない、というゴールを。

ゴールを決めて、カズダンスをやりたい、と言っていた通り、カズダンスを踊っていた。
試合後、カズ、こう語っている。
「みんなの気持ちがひとつになったゴール。みんなでこの危機を乗り越えよう」、と。
何日か前のスポーツニュースに、大阪入りする選手たちの映像があった。
モスクワから帰ってきた本田圭佑は、細身のスーツにサングラスをかけて戻ってきた。いつもの通りカッコいい。カズは、イタリアンテイストのスーツに、ダークブラウンのサングラスをかけて大阪入りしていた。それでこそカズ。まだまだ本田ごときに負けないぞ、という意思表示であろう。
ゲームが終わった後、カズが本田の肩をポンポンと叩いていた。オレもまだ頑張るが、お前らも頼むぞ、ということだろう。
このゲーム、多くの人が一体になったに違いない。被災者支援の思いを強め。