度量を示せ。

今日夕刻、石巻で、80歳のおばあちゃんと16歳の少年が発見され、救出された。
石巻署員が、倒壊した建物の上で少年の呼ぶ声を聞いた、という。大地震発生以来10日目、よくぞ生きていた。

ヘリコプターで救出される。
おばあちゃんと孫の少年、食堂で昼ご飯を食べていた。そこへ、ドカンときた、という。幸いにも、家は壊れたが、隙間があった、という。足は挟まれたが、今日、動けるようになったそうだ。

幸いにも、閉じこめられたところは、食堂。冷蔵庫のヨーグルトと、コーラと、水を飲んでいた、という。
人間にとって、水の力、凄いんだ。このおばあちゃんと孫、二人の生命力も凄いが。

助けられたおばあちゃん、しっかりとした口調で、こう答える。
ネヴァー・ギヴアップ、日本中が喜んだに違いない。
今日も、東京消防庁は、3号炉へ、自衛隊は、今日は4号炉への放水を続けている。
東電と関連企業の社員は、原子炉そのものを制御、監視する中央制御室目がけて、電源ケーブルを延ばしている。
1、2号炉の中央制御室へは、繋がった。今は、漏電その他の確認を進めているらしい。5,6号炉へも延ばしている。3,4号炉へも、と作業は続いている。
彼ら、身体を張った、オールジャパンの総力戦を続けている。日本の底力を示すために。日本を救うために。
ところで、昨日、菅直人は、自民党総裁・谷垣禎一に、副総理兼震災復興担当相としての入閣を要請した。谷垣は、拒否した。
”あまりに唐突な話である。政策協議もなしに”、というのがその理由。
谷垣の言うこと、一理はある。議院内閣制、連立を組むには、政策協定が前提だ。だから、当然、一理はある。しかし、私から言わせれば、一理はあるが、二理はない。
自民党の国会議員の多くが、”火事場泥棒だ”、と思っているワケではないだろう。自民党役員会のすべての人たちが、菅政権の延命につながる策には乗るべきじゃない、と考えているワケでもないだろう。菅直人の要請、ルール違反ではある。しかし、今は、そんなことを言っている場合じゃない。ケチなことは考えるな、と言いたい。
震災対策には協力する、「各党・政府震災対策合同会議」がある、とも言っている。しかし、「各党・政府震災対策合同会議」は、与野党の幹事長と実務者、政府からは防災担当相、官房副長官で構成されているものである。レベルが低い、とは言わないが、最終意思決定者である各党トップではない。
現在の状況、どうこう言っている場合じゃない。与野党トップが協力する挙国一致体制が必要なこと、言を待たない。
今日の朝日と産経、珍しく、同じような論調を掲げていた。関東大震災時の後藤新平のことを引いていた。しかし、後藤新平のような男、そうそういるワケじゃない。ましてや、今の日本には、いない。それならば、敗戦以来最大の国難の今、与野党協力する以外ない。共にケチな考えなど持たず。
度量がない、という他ない。
挙国一致連立内閣が必要だ。
10年ほど前、BBCが、「英国史上、最も偉大なイギリス人は?」、というアンケートを取った。エリザベス1世やヴィクトリア女王といった偉大な女王や、ネルソン提督、ニュートンやダーウィン、シェークスピア、といった名だたる人を抑えて、堂々の1位になったのは、ウィンストン・チャーチルであった。
イギリス人、ブルドッグ顔のチャーチルが大好きなんだ。そう言えば、先日アカデミー賞を取った『英国王のスピーチ』でも、チャーチル、存在感があった。チャーチルを演じたティモシー・スポール、実物よりもさらにブルドッグ顔であったが。
それはともかく、そのチャーチル、第二次世界大戦時、首相の座につくと、挙国一致の戦時内閣を組んだ。挙国一致連立内閣だ。保守党、労働党、自由党の大連立内閣を。自由党は、今は、小政党となっているが、英国首相も多く輩出している政党。チャーチルも一時、保守党を離脱し、自由党に身を置いている。
河合秀和著の『チャーチル イギリス現代史を転換させた一人の政治家』(中公新書、1979年刊)によれば、閣僚の割りふり、保守党15人、労働党4人、自由党1人、であったそうだ。
そして、その中に、5人で構成される「戦時小内閣」を置いている。いわば、最終意思決定機関だ。その5人は、こうだ。
第一党の保守党から、首相のチャーチルと前首相のチェンバレンと前外相・ハリファックス。野党第一党の労働党から、党首のアトリーとグリーンウッド。
ここで興味深いのは、前首相のチェンバレンと前外相のハリファックスが、最終意思決定機関である「小内閣」に入っていることだ。チェンバレンとハリファックスは、ヒトラーに対し宥和策を取り、それが引いては、第二次世界大戦をもたらした、と言われている男である。ミュンヘン協定をヒトラーと結んだ男だ。
同じ保守党であるとはいえ、チャーチルが反発していた男。批判していた男だ。その二人を、チャーチルは最終意思決定機関である「戦時小内閣」に引きいれた。前内閣との連続性を保ち、挙国一致体制を作った。
ヒトラーのドイツ、チェコ、ポーランド、オランダ、ベルギーを落とし、フランスも陥落寸前の時だ。アメリカは、この時、まだ参戦してはいない。イギリスはひとり、ナチス・ドイツと戦わねばならない時期であった。
危機の時代、考えの違いなどどうこう言わない。政策の違いなどどうこう言わない。そういう度量が必要だ。
今の日本、そういう時だろう。どうこう言うな。大連立を組むべきである。建前や、ルールなどは横に置いて。
閣僚の3人増は、与野党共に一致している。その増員の閣僚、野党第一党の自民党から2人、野党第二党の公明党から1人を入閣させる。自民党からは、党首の谷垣禎一と石破茂あたりを。公明党からは、代表の山口那津男を。増員閣僚、すべて野党に渡すべきであろう。野党もそれを受け入れるべきであろう。共に、どうこう言わず。
さらに、チャーチルの「戦時小内閣」に倣えば、その5人の閣僚、民主3、自民2がいいだろう。総理の菅直人と官房長官の枝野幸男とあと一人、そして、野党第一党の自民党の谷垣禎一、石破茂で構成する。場合によっては、民主党をひとり減らし、それを公明党の山口に廻してもいいだろう。そのくらいの度量も求められる。
それで、日本救済、復興内閣を作りあげる。その程度のことはしろ。与野党とも。
ヨーグルトと、コーラと、水で、10日間も生き延びたおばあちゃんの、明るい話題もあったのだから、永田町の面々も、この程度のことは考えろ。オールジャパンの総力戦でやらなくてどうする。
細かいことはどうこう言わず。