ベジタリアン・ディナー。

半月少し前、小さな新年会があった。
週に一回通っている学校の先生を囲む、謝恩会を兼ねた新年会。と言っても、生徒は、私のようなジジイと、何年前とは言わないが、かってのお嬢さん5人ばかり。
私たちの先生、とてもオッシャレーな人。頭の中もオッシャレーだが、外見もオッシャレー。フランス人だが、いつも和服地を仕立て直した服を着ている。週に一度しか会わないが、同じものを身に着けていたことはない。和服の古着を仕立て直しているそうだ。紬が洒落たシャツになったり、渋い小紋が小粋なベストになったり、と。
この日も、レストランに入り、ベレーを取ると、何と、洋服と共地の鮮やかなヘアバンドまでしていた。思わず、「ヒィー、スウィート・シックスティーン」、と声をかけた。いや、”ボー引き”と”ン”をサービスしたのだが。それでも、まだ少しサービスしすぎかな、と思わないでもないが、先生、ニヤリとしていた。
タイチー(太極拳)をやっているそうで、身体も柔軟。いつか、突拍子もないことを答えた生徒の言葉を聞いた途端、いきなり机の上にひっくり返っていた。軽々とした動作で。私たちと同年代だろうとは、とても思えない身の軽さだった。
彼女が、ベジタリアンなんだ。それで、幹事役のかってのお嬢さんが、新鮮野菜で知られるこのフレンチの店を選んだもの。田島亭というこの店、私は知らなかったが、かってのお嬢さん層には知られた店らしい。小さな店だが、4年ばかりフランスで修業したというオーナーシェフ、とても気持ちのいい人だった。話好きで。
ベジタリアンのC先生に合わせたコース、野菜ばかりだった。初めのスープ、それにジャガイモとモヤシのサラダ、ピリッとしたものだったが、よく覚えていない。

そうだ、野菜のディナー、写真を撮ろうか、とここからはカメラにおさめた。
手前はカブ。あとはすべてダイコン、白、緑、赤系が2種、それに黄色。チラッと見えているのはニンジンだ。右上に見えているドレッシングをかけて食す。

名前は忘れたが、菜っ葉のサラダだ。
田島シェフ、フランスから帰った後、六本木などで店をやっていたが、暫く前に生れ故郷の松戸に戻ってきたそうだ。近隣のこれという農家と契約し、新鮮な有機野菜を手に入れている、という。

言ってみればダイコン煮。ソースがフレンチなので、いつも家で食う風呂吹きダイコンとは、少しばかり異なった感じがした。

野菜のチーズフォンデュ。
ナメコ、カラシナ、ホーレンソウ、シュンギク、フダンソウ、コマツナの6種の野菜。これを左手の熱く溶かしたチーズにつけて食す。小さく切ったバゲットも出てきたが、このチーズフォンデュ、野菜が主。
ベジタリアンと言っても、さまざまらしい。肉や魚はもちろん、卵や乳製品も食べない、完全なというか純粋ベジタリアンもいる。C先生は、肉、魚、卵の類いは口にしないが、乳製品は食べる。だから、野菜のチーズフォンデュ、美味しそうに食べていた。

そのひとつを広げてみれば、こうなった。コウモリみたいだ。かってのお嬢さん方、面白がっていた。

これは、モロそのまま生のカブ。何もつけずそのまま齧ったような気がする。
ベジタリアン、インドには多い。エア・インディアに乗った時から、ベジかノンベジか、と聞かれるし。しかし、インドのベジタリアン料理は、濃いというか、泥臭いというか、ベジのくせに、よりドロドロしている。豆を多用していることもあろうし、何より、さまざまな香辛料が、そう思わせることもあるのであろう。
それに較べ、フランス人ベジタリアンに対し誂えられたベジ料理は、至極アッサリとしたものだった。洗練されている、と言えば、たしかにそうとも思える。
この店、野菜料理専門店ではない。もちろん、肉料理もあれば魚貝料理もある。通常は、それが主だろう。話好きのシェフも言っていた。「野菜のみで、というオーダーは、やはり稀です」、と。
そう言えば、途中で、一品だけ、ブリの薄切りを軽くソテーし、ソースをかけたものが出てきた。美味かった。ベジタリアンのC先生は、もちろん口にはしなかったが、生徒たちは、みな食べた。
そりゃそうだ。日本人のベジタリアン、少ないもの。お寺の坊主でも、常に精進料理などを食っている人は、いないんじゃないかな。よほどの高僧でも。
田島亭のベジタリアン・ディナー、面白かった。しかし、この次は、やはり、ノンベジの料理を食べることにしよう。ディナーといわず、ランチででも。