カイロの金曜日。

ムスリム(イスラム教徒)にとって、金曜日は聖なる日である。大事な日、大きな意味を持つ。
西暦630年、イスラム教の開祖・預言者ムハンマドが、メッカを陥れた日が金曜日。ムハンマド、預言者であると共に軍人でもある。アラビア半島で数々の戦いをしている。

今日、カイロのモスクで金曜日の礼拝をする人たち。
礼拝の後、「アッラー・アクバル(アッラーは偉大なり)」の唱和があり、その後続いて、「ムバラクは、退陣せよ」と叫んだそうだ。

その後、街頭デモに移る。大規模なデモに。
ムバラク政権、力で押さえつけることに決めたようだ。

今日は、ネットは遮断された、という。これは、昨日までの”打倒ムバラク”のネットでの呼びかけだ。
「4月6日運動」というのは、若者を主とする市民組織で、今回のデモを主導している組織らしい。

昨日カイロに着いたエルバラダイ、こう語る。
エルバラダイ、イランや北朝鮮の核疑惑問題が起きる度、よく出てきた顔だ。IAEA(国際原子力機関)の前の事務局長。2005年には、ノーベル平和賞を受けている。

去年の6月にも、エルバラダイの似顔絵や写真を掲げたデモがあった、という。しかし、普段はウィーンに暮らすエルバラダイ、世界的にはよく知られた人物だが、エジプト国内ではインテリ層などの待望論はあるものの、全国的な認知度は低いらしい。
御多分にもれずエジプトも、貧富の格差が甚だしく、1日2ドル以下で暮らす人が、2割を超す、という。若年層の失業率も3割を超えるらしい。今回の暴動、彼らが主体となっている。国際人、エルバラダイに期待をしているのだ。
カイロに帰ったエルバラダイ、今日のデモにも参加した。
しかし、治安部隊に取り囲まれ、APの報道では、自宅軟禁に置かれた、という。

最新情報では、死者8人、負傷者多数だが、おそらく、それでは済まないであろう。
今日のデモ、ネットの呼びかけで集まった若者や、エルバラダイ待望論の人たちのみが行ったのではない。ムスリム同胞団が加わっている。
ムスリム同胞団は、イスラム原理主義の組織。ジハード団などに較べると、穏健組織と言われるが、エジプトでは、非合法組織だ。ことは、簡単ではない。ムバラク政権、ムスリム同胞団の幹部20数人を逮捕した、という。
さらにムバラク、徹底鎮圧のため、軍を投入した。カイロのみならず、アレキサンドリア、スエズに、夜間外出禁止令を出した。

1952年、エジプトのファルーク王制は倒された。ナセルやサダトといった若手将校が、ナギブを担いでクーデターを起こした。自由将校団のクーデターだ。その後、すぐ実権を握ったナセル、第三世界の旗手となった。ネルーや、周恩来や、チトーや、スカルノなどと並ぶ旗手に。
しかし、ナセルは若くして死んだ。後を継いだサダトは、やはり軍人のムバラクを取りたてた。だが、1981年、サダトは、狂信的なイスラム原理主義者に暗殺された。その後を継いだのが、ムバラクだ。それから30年近くなる。
ムバラク、旧ソ連でさまざまな教育を受けている。親ソ派であったが、いつの頃からか親米派に転じた。サダトの衣鉢を継ぎ、対イスラエル、融和派でもある。
それはいい。しかし、30年近くも権力を握り続けると、そのアカは、たまりにたまる。腐敗も生じる。年もとってきて、息子を次の大統領に、なんてことまで考える。金正日と同じようなことを。これじゃダメだ。
エジプトの情勢、この後どう動くか解からない。しかし、どう動いてもおかしくないことは、確かである。

アメリカは、困っている。
チュニジアに始まったアラブの政変、あちこちに飛び火したのは仕方ないが、エジプトにまで飛び火するのは困るのだ。アメリカにとっては。
エジプトは、他のアラブ諸国とはワケが違う。アラブの盟主なんだから。エジプト、それにサウジの二カ国だけは、国内にどういう矛盾があろうとも、その政権の崩壊は避けたい、アメリカはそう思っている。
だが、それがだんだん難しくなってきた感もある。

だからオバマ、ネットを通じて、ホワイトハウスから、こういうことを言っている。