北泰紀行(10) タイの食習慣。

発つ前、Tから電話があった。「バンコクからチェンマイへの国内線の中ではサンドウィッチが出るが、それは食べないで来てくれ。夕食を一緒にしたいので」、との。
夕刻、チェンマイの空港へ出迎えてくれた後、まずレストランへ行った。屋根のあるところもあるが、屋外のテーブルに席を取った。

その時の写真。いいかげん食べた後のものだが、タイ料理、このようなものだ。
スープに、野菜料理、魚、チキン、ポーク、といったもの。炒めたり、煮たり、焼いたり、揚げたりしたものだ。タイの料理、トム・ヤン・クン以外知らないが、スパイシーという印象を持っている。たしかに、そう。概ね辛い。多くの香辛料を使っているので、とてもスパイシー。
それより、T、車を降りる時から、細長い袋を持っている。テーブルにつくとウェイターに言葉をかけ、袋からビンを取り出した。ワインだ。レストランへは、いつもワインを持って行く、とのこと。その理由は、こう。
今回、夕食は、一度のみ中国料理を食ったが、あとはすべてタイ料理を食べた。だいたい6〜7品から10品程度を頼んだが、その代金は1000バーツから1500バーツ程度。3〜5000円程度だ。ところが、ワインは、ものにもよろうが、1本1000バーツ程度とるそうだ。たらふく食う料理代とさほど変わらない。だから、チェンマイのレストランでワインを飲む人は、持ち込む人が多い、という。持ち込み料は、1本あたり100バーツ。もちろん、ビールなどは別だが。

これも、食べた後の写真だが、別の日の食卓。
スープといっても、激辛からそうではないものまである。さらに、スープにしろ魚料理、鶏や豚の肉料理、野菜料理、エビやカニ、貝の海鮮料理にしろ、さまざまな香辛料で調理されたものに、さらにさまざまなものをかける。トウガラシであるとか、ネギのようなものであるとか、魚醤のようなものであるとか、ライムであるとか、と。
旨さをより引き出す影武者であるのだろうが、辛さを弥増す、という効果もあるのかもしれない。
この真ん中に写っている魚、美味かった。白身の魚を揚げた料理。上にパリパリとした食感のものが乗っていた。この魚、何度か食べた。タイによく似た魚だが、淡水魚だと聞いたような憶えがある。
この後、ナイトバザールへ行った時、魚を売っている店で、よく似た魚を見た。

これだ。
唇が少し厚いような気もするが、おそらく、この魚であろう。美味い魚だった。

昼食は、ほとんど麺を食べていた。町中の食堂で。
食べる前に写真を撮る、ということに思い至らなかったで、これも、食べた後の写真だが、このような麺だ。
麺は、ビーフンのような麺、小麦粉の麺、ラーメンのような麺もあるが、あっさりとしたベトナムのフォーのような麺が美味かった。具は、せいぜい菜っ葉と小さな肉団子程度のものが。
麺を食う時には、小さな缶ビールを飲んでいた。写っているのは、シンハビール。タイには他にチャン(ゾウさん)ビールがある。このふたつが二大ブランドだそうだが、シンハビールのほうが日本人には合う感じがした。

ドンブリしか写っていない上の写真の麺、この店で食った。
黄金の三角地帯へ行く途中の街道筋の食堂で。見難いが、写真の中程には、豚の頭をガスコンロで煮込んでいるところがある。これもスライスして、麺に入れるようだ。私は、あっさり麺を頼んだが。

Tの家、台所はある。しかし、使った気配はない。T、普段は朝食は食べないそうだ。いつもは、昼前に朝食を兼ねたブランチを食べにレストランに行く、という。ワインを持って。すべて外食がTの食習慣なんだ。
台所には、多くのワインとビール、そして、ミネラルウォーターが積まれていた。冷蔵庫の中は、ビールとミネラルウォーターのみ。他に何もない。
実は、チェンマイで一番初めに行ったところは、スーパーマーケットだった。チェンマイには、Tのような外国人も多く住む。その人たちを対象とした高級スーパーがある。いわば、チェンマイの紀ノ国屋だ。
一緒に行ったSが、朝食を作る、と言いだしたんだ。Sは、絵描きではあるが、料理も得意。何より、生真面目。朝も早く起きる。で、チェンマイに着いた翌朝、そのスーパーへ行き、野菜や果物、ベーコンやソーセージ、パンやチーズ、それに、調味料の数々、Sが選び買いこんだ。毎朝食、Sが作った。野菜炒めや何やかや。常には、朝食を食べないTも食べていた。
私は、いつも寝ていた。10時頃、Tが「グッドモーニングですよ」、と言って階段を上がってくる。その時間に合わせ、Sは、野菜炒めなどを作り、チーズトーストを焼き、最後にコーヒーをいれる。果物も用意して。下の皿の黄色いのは、スターフルーツ、上の皿の小さいバナナの前の果物は、マンゴスチンだ。共に、ライチーに似た白い身の、上品な味がする果物だ。
10時過ぎ、Sが用意した朝食を食う。屋外のテーブルで。
日によって違うが、バックグラウンドに、ロン・カーターの弾くバッハやコルトレーンの「至上の愛」のCDが流れる。Tもモダンジャズ好きなんだ。何もしないのは、私だけだ。

コーヒーをいれるのに、ドリップペーパーがない。そこでS、こういうことを考えた。キッチンペーパーを使い、コーヒーを漉すことを。
辛抱強く待っていた。美味いコーヒーが産み出された。