北泰紀行(9) ギャラリー。

Tがたまに行くギャラリーがあり、ある夜、行った。

ピン川に沿って、白いコロニアル風の木造の建物が、夜空に浮かんでいる。
ギャラリー・カムダラー。
シックな服装の、50前後の女性が経営している。おそらく、この建物に住んでいた人の後裔であろう。

とても洗練された雰囲気を持つ女性であり、また、やり手だな、おぬし、との印象も受ける。顔見知りのTとは、英語とタイ語を交えた言葉で話を交わす。

建物の中、壁面のみに改装され、ギャラリーとなっている。
特定の作家を取りあげた、画廊主催の企画展も行うそうだが、この時は、何人かの作家の作品が並んでいた。いわば、画商としての画廊であった。並んでいる作品、タイの作家のものであろう。

200号近い大きな画面のこの作品、迫力があり、印象に残った。とても精緻に、男の顔を描いている。思索する男の顔を。
作家名もタイトルも記憶していないが、面白い作品だ。全体に茶色っぽく見えるが、近寄ってよく見ると、実に多くの色が使われている。

元は住居であったであろうから、各部屋2〜30平方メートル程度のもの。もっと小さな部屋もある。それが、つながっている。

こちらも。

階段のところにも、作品が掛かる。

部屋の外には広いベランダが廻っている。そこにも作品が掛けられている。
開け放たれた、いかにもコロニアル風の窓。そこから、心地よいピン川の川風が入ってくる。
ところで、今回共にTを訪ねたS、絵描きである。立体作品も創るが、その立体を平面に置きかえたような、シャープなフォルムの作品を描く。
ずっとサラリーマンをしてきた。定年後、嫁いだ2人の娘の部屋を改装、アトリエにし、今は、毎日アトリエに入っているそうだ。日常が絵描きになってからは、1〜2年に1回、個展を開いている。今年も6月に、銀座の「ギャラリー・オカベ」で個展が予定されている。もちろん、2年に1度の私たちのグループ展の常連だ。
T、そのSの作品を、このギャラリーのシックなオーナーに売りこんだ。まず作品を、その写真を見せてくれ、となった。
それが面白ければ、画廊主催の個展も考えられるし、そうでなければ、他の作家のものと一緒に並べるということもあるし、と。もちろん、そうにはならないこともあるのだが。しかし、それもこれも、作品を見てからの話とのこと。当然である。S、やってみろ、と私はSの尻を押した。何なら、日本からの連絡、オレがしてやるから、と。まず、作品の写真を送ってこい、と言って。
しかし、Sからの作品写真、まだ来ない。万事大雑把な私と違い、Sはキチンとした性格、万事に慎重なんだ。今まで何度か二人で旅をしているが、性格が異なるから、気が合うんだ、と私は思う。
それはともかく、S、”やってみなはれ”、だぞ。

この時の展示、アーティストの名は憶えていないが、この作家の作品が多かった。
これは、200㎝×290㎝の大作。タイトルは、「チェンマイの歴史」となっていた。値段は、39万バーツ(約130万円)。高いのか安いのかは、解からない。
画面中央に、白くうねっているようなのは、おそらく、ピン川をイメージしているのであろう。中央上は、チェンマイの仏塔・チェディとも見えるし、須弥山を表わしているようにも思える。

道を隔てた向こう側にもギャラリーがあった。
中に入ると、奥行きが深く広い。1階と2階の壁面に、ゴッホ風、デ・クーニング風、ポロック風、ウォーホル風、バスキア風、さまざまな作品が並んでいた。

1階の一角に、バッグなどに加工した作品のコーナーがあり、その前のテーブルに、さまざまに色付けされたゾウさんの作品がある。なかなか美しい。
10センチばかりの小さなものをふたつ求めた。ひとつは、ロンドンの地下鉄の路線図が描かれているもの。あとひとつは、黒と白、それに、グレーのみで描かれたもの。ここに写っているものより、小ぶりなものだ。ひとつ1000バーツだった。
帰ってから説明書を見ると、これは、ロンドンやヨーロッパの諸都市を中心に活動している「Elephant Parade」、というところのもので、アジア象を護るためのチャリティー活動をしている、とある。
各国のアーティストが絵付けをしている、と書いてあり、作家名も記されている。しかし、ひとつあたり、2500造られている。ノンブルもふってあるが、量産品だ。しかし、なかなか美しい。
その後、シックな女性オーナーの画廊、ギャラリー・カムダラーのすぐ裏手、ピン川に沿ったレストランで夕食とした。多くの客が入っていた。ここのオーナーも、ギャラリー・カムダラーのオーナーと同じ人。
シックで洗練された雰囲気を持つあの女性、商才も、なかなかな人のようだ。