雨の新宿 出版記念会。

久しぶりで新宿へ。くぼたかずこ歌集の出版記念会。花園神社のそば、ホテル・サンライト新宿で催された。
くぼたかずこは、新宿ゴールデン街のバー「十月」のママである。夫君を亡くした後、会社員をしながら2人の子供を育て上げ、5年前に大転換、ゴールデン街のママになった。
「十月」およびかずこママについては、昨年末のこの雑ブログ、「久しぶりのゴールデン街」でも紹介しているが、今日のかずこママ、このような姿であった。

私は、「十月」のいい客ではない。古い仲間の絵描き、犬飼三千子の紹介で知ったのが、4年ほど前。その頃は時折り行っていたような気がするが、その後は行かなくなった。年に、一度ぐらいしか。店に問題があったわけじゃない。私に問題がある。
リタイアした私、夜の新宿へ出ることが、ガクンと減った。”夜の新宿 うーらどおりー かーたーをよせあーう とーおーりあめー”、なんて世界から、まったく別の世界の住人になってしまった。だから、かずこさんに会うのも、去年の暮以来。
そんな客とも言えぬ、客の風上に置けぬ男にも、毎月、メルマガ「十月通信」を送ってくれる。先月には、大勢さんを引き連れて、京都の龍谷大学の講堂で、「親鸞とバッハ」なるコンサートをしたようだ。その前には、熊野古道で、ヴァイオリンコンサートなども催している。すごくアグレッシブ。何より驚かされるのは、毎月のメルマガに載っている、その月に観た映画の数。平均20本前後観ている。半端じゃない。
それはともかく、くぼたかずこの歌集『とんとん月を抱いて帰ろう』(ながらみ書房 今月刊)、帯の背に、”あなたの心に、残りたい”と書いてある。その構成、章立てが面白い。月の満ち欠けなんだ。
”朔”、”既朔”、”眉”、”上弦”、から始まり、”二十六夜”、”有明”、”暁”、”盈月”、まで、19章で構成されている。店を閉めるのは、夜半。毎夜毎夜、月を見ながら帰るのだから。出ていようと、出ていまいと。
今日は、日本全国、どこも雨。もちろん、月は見えない。だが、今日の月齢は、22.3。本来ならば、下弦の月だ。で、”下弦”の章から、いくつか紹介してみよう。
     誕生日祝うことなど今はもう墨絵のごとき十月の夜
     真実はひとつ見方は無限なり今宵のテーマはいささか無情
     驟雨の夜こころの追跡ドキュメントわが青春もぽつりぽつりと
     歌舞伎町今日もわたしは異邦人異国の言葉かいくぐり行く
今日の出版記念会、私は、少し遅れて着いた。挨拶も乾杯も終わっていた。しかし、その後、素敵なライブがあった。

ひとつは、ジャズシンガー、Ryu Mihoの歌。
「Fly me to the Moon」と、シンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」を歌った。「タイム・アフター・タイム」が、抜群によかった。ハスキーな声に乗って、とても心地よかった。

Ryu Miho、歌い終わった後、私が好きなかずこさんの歌、と言って、くぼたかずこの歌を何首か読みあげた。
手に持っているのが、今日、参加者に配られたできたてホヤホヤの、くぼたかずこの歌集『とんとん月を抱いて帰ろう』である。
この窓の外の景色、いかにも新宿らしい。花園神社のそばの新宿だ。ゴールデン街は、すぐそこ。

次いで、河村典子のヴァイオリン演奏があった。
バッハだったかクラシックの後に、映画「おくりびと」の中の、たしか、「メモリー」とかという曲を弾いた。河村典子、永くスイスのチューリッヒを拠点に活動をしている人だそうだが、クラシックに限らず、他のジャンルの音楽にも取り組んでいる、という。熊野古道でのヴァイオリンコンサートも、この人が演奏しているようだ。とても、ノーブルな印象を受けた。
伴奏のギタリストの名は、聴きもらした。ジャズであれ、クラシックであれ、メーンを立てるその演奏、洗練されたものだった。
皆さま、バー「十月」の客だそうだ。
あ、危うく忘れるところであったが、この写真の左端で、小さな花束を持っている人が、今日の主役・かずこママ。
今日の会、古い友人のHを誘った。Hを初めに「十月」に連れて行ったのは、私だから。私は、ほとんど行かなくなったが、Hは時折り行っているらしい。帰途、ふたりで、また飲んだ。その時、Hと私の意見が割れたことがある。かずこママの年代のこと。
私が思っている年代と、Hが思っている年代に、おおよそ10の開きがある。どちらが若く思っているか、ということは言わないが、紹介者の私より、より多く「十月」に行っているHの言う方が、当たっているのであろう。
かずこママが詠む歌にも、時折り現れるが、この年代になれば、実年齢なんてことはどうでもいい。今を生きているか、ということだけで。
今日は、台風接近で雨。10月も終わり。それで、最後に、”十日夜(とおかんや)”の章に入っている、10月の雨を詠んだ歌を引いておこう。
     気が付けば開店三月の窓濡らす銀の雨十月の雨
”十月の雨”には、”オクトーバーレイン”とルビがふってある。5年前、開店間もなくの頃、詠んだものだな。
ゴールデン街も、今はなかなか厳しいらしい。
元気な皆さん、ぜひゴールデン街のバー「十月」に行ってください。旧都電通りから入ると、2本目の通りの右側。すぐ解かる。小さな店だが、何かがある。