決然とした覚悟を持つ言葉。

数日前、とても美しい本が送られてきた。
茨木のり子著『倚りかからず』(筑摩書房刊)である。
娘の亭主の父君から贈られた。この本の製作過程に、父君がやっておられる会社が関わっている。”15万部のロングセラーになっており、・・・・・”、と添えられていた手紙にはある。
奥付けを見ると、初版発行は、1999年10月。贈られたものは、15刷。いかに日本を代表する詩人のひとり、茨木のり子だとはいえ、詩集の初刷りは、数千部であろう。それが、版を重ねに重ね、15万部のロングセラーにとは、正直いって驚いた。
実は、この書のことは知ってはいた。以前、新聞か何かで触れられていたのを、読んだ憶えがあるので。しかし、普段詩集などを読むことなど、ほとんどない私、手にすることはなかった。
読んで、驚いた。優しさもあるが、腹の据わった、力強い言葉が紡がれている。
詩集としては、当たり前なのであろうが、安くもない。ハ−ドカバーではあるが、わずか80数ページの書、1800円+税、となっている。それが15万部も出ている。それだけ、茨木のり子の紡ぐ言葉の力、強力なものを持っている、ということだろう。たまたま贈られて初めて読んだが、読むと、それが解かる。
特に、書名ともなっている、「倚りかからず」は、茨木のり子自身の、決然とした覚悟を強く感じる。
   もはや
   いかなる権威にも倚りかかりたくはない
   ながく生きて
   心底学んだのはそれぐらい
   じぶんの耳目
   じぶんの二本足のみで立っていて
   なに不都合のことやある
   倚りかかるとすれば
   それは
   椅子の背もたれだけ
これは、この詩「倚りかからず」の後半。この詩の前半の、”もはや、できあいの思想や宗教や学問には、倚りかかりたくない”、という6〜7行の文言を受けたものである。何とした強さ、己に対する強い自負、超然とした心の内。
こういうものもある。
「笑う能力」という一篇。その中の一部。
   深夜 ひとり声たてて笑えば
   われながら鬼気迫るものあり
   ひやりともするのだが そんな時
   もう一人の私が耳もとで囁く
   「よろしい
   お前にはまだ笑う能力が残っている
   乏しい能力のひとつとして
   いまわのきわまで保つように」
   はィ 出来ますれば
   ・・・・・・・・・・
   気がつけば いつのまにか
   我が膝までが笑うようになっていた
「倚りかからず」とは、少し趣きが異なるようにも思えるが、やはり、己に対する強い自負に裏づけられた、自己省察の言葉。
茨木のり子、ご亭主を亡くした後、30年余の間、ひとりで生き、4年前、ひとりで死んだ、という。
決然たる覚悟の許、己の強い意志を貫いた一生であったであろう。
『倚りかからず』には、15篇の詩が収められている。いずれも、短い詩。だが、深い。凡なる己を、顧みさせてくれる。
で、ここ数日、毎日読みかえしている。
決然とした覚悟を持つ言葉を。