ひとり行く道。

イチローの、メジャー10年連続200安打、今日成った。メジャーリーグ初の快挙。
200本目の打球は凄かった。まさにバットの真芯に当たった鋭い打球だった。以前、イチローのバットを作っている人を取材した番組を見た。イチローのバットは、他のものより細いそうだ。芯も細い。難しい。イチロー以外、使いこなせない。しかし、真芯で捉えると、鋭い打球が飛ぶそうだ。200本目は、まさに、そのような打球だった。
200本目を放ち、一塁ベース上のイチロー、暫くじっとしていた。スタンドの観客も、ダッグアウト前に出てきたチームメイトも、皆が拍手をしているというのに。その間少し間があり、イチロー、ヘルメットをとり、軽く会釈した。後でイチロー、こう語っている。「あっ、喜んでいいんだな」、と。アメリカでのイチロー、複雑なんだ。
2年前の200本達成時のことが、トラウマになっているそうだ。”チームはドン尻なのに、イチローは自分の記録だけを追いかけている。利己的だ”、とチームメイトからも批判を受けたことが。今年も、マリナーズはドン尻。その中での記録達成、ダッグアウト前に並んだチームメイトの拍手を確認した後、おもむろにヘルメットをとり、会釈をしたのも、ここにそのわけがある。
ひとり無人の野を切り裂いて行くイチローの記録、アメリカのメディアも大きく取り上げているそうだ。しかし、ピート・ローズは、こういうことを言っているそうだ。イチローのヒットは、内野安打が多い、と。内野安打は、運に左右されることが多いヒットだ、ということを言っているらしい。
ピート・ローズは、年間200安打を通算10回為している。イチローは、今日それに並んだ。しかも、10年連続で。ピート・ローズ、何を言う、という気持ちだ。
先日、イチローは、日米通算3500安打を達成した。その時には、観客の拍手もチームメイトの祝福もなかった。観客に知らせてくれるな、やってくれるな、というイチローの意向だったそうだ。日本人にとっては、もの足りない。何故だ、と思う。しかし、イチローのこの判断、私は的を射ていると思う。
ピート・ローズ、こんなことも言っているそうだ。日本リーグは、3A程度のものだ、メジャーとは比較にならない、と。3A程度とは、日本のプロ野球も安く見られたものだが、それほどではなくても、メジャーリーグと差があることは事実。アメリカでは、日本に限らず、メキシコリーグも独立リーグも、それとの通算記録は、意味を為さないそうだ。良識のある野球人の間でも。
イチローは、それが解かっている。だから、通算3500本安打達成時にも、これは別種、そう判断したのだろう。ひとり、アメリカで戦う感のあるイチローらしい冷静、冷徹な判断だ。
しかし、大方の日本人にとっては、それじゃ収まらない。メジャー記録、ピート・ローズの4256安打の記録を抜き去るのは、4年後だ、と言っている。イチロー、達成するであろう。その時、40歳になっているが、達成する。しかし、アメリカでは、参考記録、という扱いになるだろう。メジャーの殿堂・野球博物館には入るだろうが。
イチローも、「是非、超えてあげたいですね」、と言っている。この”あげたいですね”、というややシニカルな言葉に、アメリカで、ひとり戦う日本人、イチローの心が読みとれる。
今日、白鵬は、把瑠都を下し、60連勝を成しとげた。
イチローは、アメリカで、日本人として戦っている。だが、白鵬は、日本で、日本人になりきろうとして戦っているように思える。
ひとり行く道に、変わりはないが。