連勝の軽重。

白鵬、今日も勝ち、明日勝てば千代の富士の連勝記録・53に並ぶ。
今日の一番、栃ノ心戦だった。栃ノ心が先に左上手を引いた。しかし、白鵬、すぐに栃ノ心の上手を切り、下す。解説の北の富士は、「上手を引いた時にすぐ攻めなきゃ、切られるのは解かってるんだから」、と言っていたが、解かっていながら勝負を賭けられない、賭けさせない、というのが、白鵬の強さだ。
白鳳と栃ノ心、体格はほぼ同じ。身長は、両者共192センチ、体重は160キロ前後。単純に腕力を較べたら、栃ノ心の方が上だろう。
実は今日、ヒョットしたら、と思っていた。栃ノ心、このところ地力をつけてきている。一昨日は、日馬富士を熱戦の末、力で圧倒している。だが、白鵬には歯が立たなかった。日馬富士ならなんとかなるが、白鵬にはかなうまい、という意識がある、と思われてならない。潜在的な意識が、頭の中に。
このことは、なにも栃ノ心に限らず、すべての力士の頭の中にある。だから、白鵬の連勝は伸びる。
明日の白鵬の相手は琴奨菊。琴奨菊、白鵬相手に両差しは難しい。だが、まわしが取れようとも、取れまいとも、一直線にガムシャラにガブれ、と思っている。それで、投げ捨てられてもいい、ただ前へ、と考えているのだが、おそらく、そうはいかないだろう。
私は、白鵬が嫌いではない。むしろ、好感を持っている。しかし、贔屓力士ではない。私の贔屓力士は、豪栄道、鶴竜、栃煌山、それに、いつまで経ってもピリッとせず、歯がゆい思いばかりさせられている、稀勢の里だ。何事にも共通するが、この”歯がゆい思いばかり”、ということは、惚れた弱みを増幅させる。
余計なことを書いたが、要するに、白鵬は贔屓力士ではないが、好感を持っている力士である。凄い力士である、と思っている。だがしかし、白鵬の連勝記録には、凄い、と思いつつも、ウーン、という気もする。
明日、千代の富士の記録に並び、それを抜き、来場所には、双葉山の記録をも抜く可能性は高い。どうしても、連勝の軽重、ということを考えてしまう。
昭和14年1月場所、双葉山は、安芸ノ海に70連勝を阻まれる。その時、安芸ノ海の付け人をしていた小島貞二は、その場面を土俵側から見ている。身体は大きかったが、力士としては芽が出なかった小島貞二は、その3年後、力士を廃業、著述業に身を転じる。文才があったんだ。もちろん、相撲に関する著述も多い。
少し古いものだが、その小島貞二著『歴代横綱おもしろ史話』(1993年、毎日新聞社刊)を読む。相撲の中継を見ながら。初代横綱・明石志賀之助以降の横綱の話が記されている。連勝記録も載っている。
双葉山、69連勝。江戸後期の谷風、63連勝。明治初頭の初代梅ケ谷、58連勝。明治末から大正にかけての太刀山、56連勝。そして、千代の富士の53連勝、と。
今と何が違うのかって、その連勝を続けた期間が違うんだ。昔は、1年2場所。それも、1場所7日とか、9日とか、11日とか、13日とか、という場所。その中での連勝記録。双葉山でさえ、昭和11年1月場所から、昭和14年1月場所にかけて、約3年間勝ち続けた。それ以前の力士は、もっと遥かに長い期間勝ち続けた。負けなかった。
太刀山にいたっては、明治42年6月から、大正6年1月まで、43連勝と56連勝をしている。明治45年1月場所で、たったひとつの黒星を挟んで。つまり、7年半の間に、たった一度負けただけで、あとはすべて勝っている。考えられないことである。
もちろん、時代も違えば、興行形態その他の状況も違う。しかし、このようなことを読めば、連勝の軽重ということも、ツイ頭に浮かんでしまう。
白鵬には、連勝を続けてもらいたいし、また一面、他の力士、だらしがないとは言え、白鵬の連勝、1年に満たないじゃないか、という思いもある。
こんな碌でもないことを考えるのも、相撲の楽しみのひとつである。