年代(6) 30代・・・希望。

昨日は雨も降ったが、今日は強い陽が、また照りつけている。ここ暫く、外へは出ていない。
連日、熱中症がどうこう、と報じられているんだから、当然だ。
6月ぐらいまでは、時折り散歩に出かけていた。散歩といっても、近所をゆっくりと歩く程度。たまに、少し先のコーヒー屋まで行き、座ってコーヒーを一杯飲む、という程度。私が出かけるのは、大抵は夕刻。時には、小さなカメラを持っていき、道端の写真を撮ることもある。何でもない、ごく普通のものを。
空の写真を撮ることもある。空といっても、雲があれば雲の写真となる。日中でも雲はあるんだろうが、何か、夕方の方が、雲が多いような気がする。科学的な根拠は知らないが。

2カ月近く前、6月の初めごろだったと思うが、散歩に出た。ブラブラと歩きながら、雲の写真を撮っていた。この後の何枚かの写真も、みなその時のもの。
6時すぎだった、と思う。まだ明るい。夏至に近いころだったので、暑い今の時季よりは、もっと明るい。

何という名なのかは知らないが、おそらく、ありきたりの雲だろう。

「いつもいつも、ケーキ屋さんで買えるわけではないの」、突然、後ろで大きな声がした。雲の写真を撮っている時。
思わず振り向くと、30代半ばのお母さん。その横に、小さな自転車にまたがった、5つか6つか、といった年恰好の坊主がいる。
そういえば、さっき曲がった道の角にケーキ屋がある。10数年前からあり、こんなところでケーキ屋なんて、よくもやっていけるものだ、と思っていた。おそらく、その坊主、そのケーキ屋でケーキがほしいと言ったのに、買ってもらえなかったんだ。
野球帽を被った坊主、押し黙っている。
”そうだぞ、坊主。ケーキ屋のケーキなんか、いつも食べられるものじゃないんだ。たまに食うから美味いんだ”。坊主の背中に、そう言ってやりたかった。言っても、5つか6つの坊主には通じないだろうが。

「お母さんが作ってあげる。お店のケーキよりももっと立派なケーキを作ってあげる。もっと美味しいものを、お母さんが作る」、とそのお母さん、続けて言った。
坊主、やはり、押し黙っている。
”そうだ、坊主。お前のお母さんは、エライぞ。ケーキ屋のケーキよりもずっとすごくて、もっと美味いケーキを作ってくれるぞ。多少は形がゆがんだりはするだろうが、きっと美味しい。第一、お前のお母さんは、気合いが入っている。お母さんのケーキを食え”。少しずつ遠ざかって行く、30代半ばのお母さんと、5つか6つの坊主の後姿に、そう呟いた。声にならない声で。

3〜40代という年代、生きていくのに大変な年代だろう。子供を育てなければならないし、少し大きくなれば学費もかかるし。ましてや今は、給料は上がらないし。厳しい年代だ。
しかし、この30代半ばのお母さん、しっかりしている。気合いが入っている。ケーキ屋のケーキよりも美味いものを、お母さんが作ってあげる、と息子にキチンと言っている。この坊主、何十年か後、きっとこのことを思いだすだろう。その時、既にお母さんがいなければ、なおのこと。
30代半ばのこのお母さん、このような30代がいる限り、日本も捨てたものではない。
日本の将来、希望がある。