柔道日本一。

外出先から急いで戻り、NHKを入れると、準々決勝までは終わっていた。丁度、鈴木桂治が、2対1の旗判定で敗れた場面だった。
毎年、この日に日本武道館で行われる「全日本柔道選手権」、体重無差別、真の柔道日本一を競う大会である。
全国10地区の予選を勝ち抜いた各地区の代表35人と、推薦選手2人(昨年の覇者・穴井隆将と2位だった棟田康幸)の合計37人によって、柔道日本の真のチャンピオンを競う。NHKの映像を追ってみる。
今年、準決勝に歩を進めたのは、この4人。
何回目という回数は、この全日本選手権への出場回数であり、その下には、最近の主な戦績が記されている。

昨年度の覇者・穴井隆将。
25歳ながら、7年連続、7回目の出場となる。もちろん、今年の本命だ。順当に勝ち上がってきた。
山下泰裕も昨日の朝日の紙面、こう書いている。<穴井隆将の2連覇の可能性が最も高いと思う。脂が一番のっている時期だし、練習量も十分。昨年大会の準々決勝で鈴木を背負った一本は素晴らしかった>、と。

この大会で準優勝3回のベテラン・棟田康幸。
12回目の出場となる棟田も、29歳になる。いかにも重量級、といった選手だが、棟田に関しては、いつも2番手の選手という印象がぬぐえない。オリンピックの選手選考の時もそうだったし。

高橋和彦。実は、今日、彼が優勝し、今年の柔道日本一になった。
2回目の出場となっているが、2年ぶり2回目の出場なんだ。去年は、地区予選で敗れ、出場できなかった。その高橋が、今年の覇者となった。たしかに、試合運びは上手かった。だが、ベスト8に残った選手は、みな紙一重、ということも言えそうだ。

立山広喜。シャッターを押すのが遅れたが、うしろを向いている選手。準決勝に残った4人の中では、最も大きな選手であった。
高橋和彦とは、高校、大学(大牟田高校ー国士舘)と同級生だったそうだ。ライバルとして、共に切磋琢磨して、ここまできた。

準決勝の第1試合、棟田対立山戦。
身長差23センチもあり、棟田は立山に簡単に奥襟をとられ、動きを封じられてしまった。解説をしていた斎藤仁が、棟田は、簡単に奥襟を取られたらいけません、と言っていたが、少し淡白な感じを受けた。重ねて注意を受け、それが、立山の技ありポイントとなった。

準決勝第2試合、穴井対高橋戦。
穴井有利と見られていたが、残り時間1秒となっても、両者目だったポイントはなかった。結局旗判定。主審、副審、3人とも高橋にあげた。穴井も攻めたが、高橋の組み際の攻めが印象に残った。それが、勝敗を分けた。
穴井の連覇は、ここで潰えた。
それにしても高橋和彦、準々決勝で鈴木桂治(山下泰裕は、穴井に次いで、優勝候補の2番手には、鈴木をあげていた)を破り、準決勝で本命の穴井を退けた。凄い。試合運びに積極性を感じる。

ベスト8に残った選手。その中、決勝に勝ち進んだのは、立山と高橋の2人。

立山対高橋の決勝戦。
はじめに、立山が支えつりこみ足で有効ポイントをとる。だが、残り1分19秒、高橋が大外刈りで有効ポイントを返す。
これは、高橋(上の選手)が大外刈りを掛けた時のものだが、シャッターを押すタイミングが悪く、さほどの技とは見えないな。だが、実際は、技ありに近い有効だったのだが。

残り34秒。
両者有効ポイントひとつずつだが、高橋の攻めが勝り、立山は注意を受け、結局、高橋が勝つ。
今年の柔道日本一、高橋和彦が取る。
なお、この決勝戦、戦った2人も国士舘のOBなら、主審も国士舘の出身、それを話した解説の斎藤仁も国士舘。メーンキャストはすべて国士舘OBであった。国士舘柔道部の面々は、気持ち良かったであろう。高橋が勝とうが、立山が勝とうが。

試合後の高橋と立山。
高校、大学と同級生の2人、高校のころから、大牟田のツインタワーと呼ばれていたそうだ。
そりゃそうだ。187センチと193センチだもの。これからの日本柔道の重量級は、この程度の身体がないと、どうしようもない。世界に太刀打ちできない。頑張ってもらいたい。

その後の画面に流れた鈴木桂治。
鈴木のコメントを取ったアナウンサーがこう言っていた。鈴木は、「同じ相手に、2度負けた」、と言っていたそうだ。以前にも、高橋に負けたことがあるのだろう。
井上康生が引退し、あの石井慧も別世界へ去った後、日本柔道を引っぱってきた鈴木桂治も29歳。
どのような表情で、どのような声音で話したのかは分からぬが、この短く、簡単な言葉に、鈴木の心情が表われていること、痛いほどよく解かる。